バフェット氏の執筆時の心掛け

皆さまは投資の神様と呼ばれているウォーレン・バフェット氏を
ご存知だと思います。彼は世界最大の投資持株会社である
バークシャー・ハサウェイの筆頭株主です。
また毎年開催される同社の株主総会では彼の話を
聞くために世界中から数万人にものぼる株主が参加しています。
そのような会社のアニュアルレポートはどのようなものでしょうか。

彼は自分の会社のアニュアルレポートを書くときは、
投資家そのものというよりも、自分のお姉さんや妹に
話をするようなイメージで執筆するそうです。
もちろん、バフェット氏のお姉さんたちも知的な
方だとは思いますが、会計や金融の専門家ではありません。
プレイン・イングリッシュは理解できても、専門用語には
まごつくでしょう。

また、バフェット氏はこう述べています。
「自分が投資家として読み手の立場だったら知りたいと思う情報を
提供する。それが私の目指すところです。よい文章を書くためには
シェイクスピアである必要はありませんが、情報を与えたいと心から
思っていなくてはなりません。」

誰かを感動させたり、うならせたりするためではなく、
情報の提供ということを常に心に留めて文章を書くことが大切です。
ちなみにバフェット氏の2017年のアニュアルレポートの一部の英語の
読みやすさを計測したところ高校3年生が読んで理解できる
レベルでした。ぜひ一度読んでみてください。

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◆ 参考・出典

  1. 金融財務編 Plain English Handbook:SEC
  2. 法律編 Richard C. Wydick, Plain English for Lawyers,
      66 Cal. L. Rev. 727 (1978)

プレイン・イングリッシュ、プレイン・ランゲージ

以前に比べて日本でもプレイン・イングリッシュへの注目度が
上がってきました。金融審議会ディスクロージャーワーキング
グループ報告(平成30年6月)でも分かりやすい開示という点から、
プレイン・イングリッシュについて述べられています。


(前略)米国では、SEC(米国証券取引員会)が、平易な言葉で明確、
簡潔に、整然とした構成で記載すべきという”Plain English”の概念を、
一部の非財務情報に適用している。

また、英国では、FRC(英国財務報告評議会)が、適切で容易に
理解可能な情報が投資家に提供されることを目的として、
2015年に”Clear & Concise”を公表し、優れた開示の実例を
紹介している(後略)

参考:https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20180628/01.pdf


そしてプレイン・イングリッシュと同様に注目されている考え方
として、プレイン・ランゲージ(平易な言語)があります。
基本的な考え方はプレイン・イングリッシュと同じですが、
英語に限らず他の言語でも、読者ができるだけ迅速、容易にそして
完全に内容を理解できるように書く手法です。

提供しているサービスや制度が利用しやすいように公的機関は
プレイン・ランゲージを使うように法律で定めている国もあります。
またWHO(世界保健機関)では効率的なコミュニケーションのために、
プレイン・ランゲージの使用を原則としています。

日本でも今後さらに外国人が増えるにあたり平易な日本語への取り組み
が進んでいます。
いずれもコミュニケーションの円滑化、生産性の向上を目標としており、
世界的に意識が高まっている取り組みといえます。

プレイン・イングリッシュで企業のストーリーを語る

「優れた語り手は、興味を惹きつけてやる気を起こさせるだけでなく、
変化に対して心を開かせます。優れたブランドやビジネスの
成功の裏には必ず優秀な語り手が存在します。」マイケル・ライト

IR担当者は、ストーリーを語るためのテクニックを使用して
影響力を高めるべきであるという話は多く耳にします。
しかし同時に、プレイン・イングリッシュも使用するべきであるとも
言われています。いったいどちらを優先すればいいのでしょうか?
その答えは、「両方」です。

優れた語り手は、ストーリーをシンプルに語ります。
シンプルにすることで、オーディエンスの注意を惹き、
楽しませるため、ストーリーを覚えてもらえる可能性が高まります。
そうすることで、覚えた話を誰かに話してもらったり、
引用してもらえるチャンスが増えるのです。

オーディエンスが思わず助けたくなるのが、優れた語り手です。
弊社の顧問がこんな話をしてくれました。

彼女は自分の5歳の子供によく絵本を読んでいるそうです。
絵本を読んでいる際に、彼女が口にする前に子供のほうが
決めゼリフを口にすることがあります。

子供はページに描かれた絵を見て、彼女が語っている内容を聞き、
タイミングよく決めゼリフを口にするのです。

このとき、彼女は自分がストーリーをうまく伝えられている
ということを実感するそうです。子供のほうも誇らしい気持ちになり、
彼女もまた子供が本を読むことを覚え、本が好きであることに
誇らしい気持ちになります。

幼稚園児だけに留まらず、大人である投資家にとっても、
誇らしい気持ちになり、役に立っていると感じることは快感となります。
そのため、ストーリーに聞き入って参加するうちに、
自分がソリューションの一部となることを望むようになるのです。

企業は投資家を敵に回したいとは考えておらず、
建設的な戦力として自分側について欲しいのですから、
非常にうれしい効果です。

簡単に思い出すことができ、自分に関係があると
感じてもらえるストーリーを提供することで、
聞き手の記憶に残すことができます。

記憶に残るということは、価値があるということでもあります。
聞く価値があり、読む価値がある、繰り返す価値があるのです。

このようなストーリーを聞いた投資家は、まるで企業にとっての
スポークスマンのように、書面に書かれただけのストーリーを
さらに広い世界へ広げてくれるのです。そしてそこに欠かせないものが
プレイン・イングリッシュの表現です。

「情報」や「ストーリー」が洪水のようにあふれる現代、
オーディエンスに切り捨てられないためにシンプル、
明確に表現するためのプレイン・イングリッシュをぜひ活用ください。