決算発表のバズワード「サプライチェーン」 的確なコミュニケーションで投資家の信頼を勝ちとる

新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、サプライチェーンの混乱が世界的な課題となっています。決算やニュースリリースにおいて、サプライチェーンという言葉を今まで以上に耳にするようになったのではないでしょうか。

Bloombergによると、10月5日の時点で、2021年の決算説明会で3,000回サプライチェーンという言葉が使われました。ちなみに、2020年は通年で2,000回使われたということです。サプライチェーンについて説明される場は、確実に増えています。

投資家が関心をもつ課題ながらも北米での優先順位は低め

サプライチェーン問題はステークホルダー関連の課題に位置付けられています。ステークホルダー関連の課題には、カーボンニュートラルやカスタマーリレーションなども含まれます。

IR Magazineの10月19日の記事によると、ステークホルダー関連の課題の中では、サプライチェーン問題の優先度は企業にとってそこまで高くありません。一方で、投資家が高い関心を寄せている分野でもあります。ただし、北米に限定すると、企業は積極的にサプライチェーン関連の課題を投資家に説明していますが、投資家にとっての優先度は低くなっています。

課題を戦略的に説明する

いずれの場合も、サプライチェーン問題への過剰なフォーカスに、投資家は懸念を感じています。サプライチェーン問題を体のいい隠れ蓑に使って、業績低迷の理由をしっかり説明しないことを危惧しているのです。

そのため、サプライチェーン関連の課題を投資家に説明する際には、的確かつ十分に、さらには戦略的な視点で説明する必要があります。

企業の歴史、現在置かれている状況、持続可能な長期的価値を実現させる戦略などとの関係を明らかにして、的確かつ簡潔に説明することが投資家からの信頼を得るコミュニケーションのポイントとなります。

アメリカ式、IR情報の掲載方法
関連情報を絡めたカレンダー型方式が主流

日本企業のウェブサイトのIR情報には、決算短信、投資家との電話会議、よくある質問などが主に掲載されています。アメリカの企業ではどのような資料を発表しているのでしょうか。

近年、多くの米国企業がカレンダー型方式を活用してIR情報を掲載しています。この方式では、IR情報のセクションの下の「イベント」または「イベントおよびプレゼンテーション」というヘッダの下にさまざまなイベントが時系列に沿ってシンプルなスタイルで掲載されています。クリックすると関連情報へのリンクがシンプルに並べられています。投資家は過去、現在、未来の業績を簡単に見つけることができます。

またカレンダー型方式では、文書、動画、音声、静止画などさまざまなIR情報を紐づけて情報提示することができます。該当情報がPDFである場合は、その旨を明示するなど、読み手の利便性についてよく考えられています。

具体的に、世界トップのエンターテイメント企業ディズニー社と小売業ウォルマート社の例を見ていきましょう。

ディズニー社の決算報告ウェブキャスト

ディズニー社は、IRページの「イベントとプレゼンテーション」のヘッダ下にカレンダー型方式でIR情報を掲載しています。

今後発表予定の四半期業績についての予告、過去のリリース、インベスターデータなどが時系列順に並べられています。

例えば、2020年第4四半期の業績は、Investor Relations – EVENTS AND PRESENTATIONS下の「Disney’s Fiscal Full Year and Q4 2020 Earnings Results Webcast」(ディズニー社2020年度および第4四半期決算報告ウェブキャスト)のコラムをクリックすると、すぐに音声が再生できるようになっています。また、同じページに、関連情報である

・決算短信
・決算調整(非GAAPからGAAPへ)
・音声(MP3 ファイル)
・音声のトランスクリプト

などが同じセクションからダウンロードできるようになっています。

https://thewaltdisneycompany.com/investor-relations/#events
https://thewaltdisneycompany.com/disneys-fiscal-full-year-and-q4-2020-earnings-results-webcast/

ウォルマート社

ウォルマート社も、「イベント」ヘッダの下で同様にカレンダー方式をつかってイベントを掲載しています。また、5四半期先までのリリースの予告も掲載しています。

各イベント項目には、情報が公開される日付と時間が掲載されており、カレンダーアプリへの入力もクリックひとつでできるようになっています。また、「四半期報告の資料は、発表日の午前6時に閲覧できるようになります」といった、簡単なメッセージなどが記載されています。

https://corporate.walmart.com/newsroom/financial-events

IRの未来~変わり続ける環境に順応する~

IROとして15年のキャリアをもつNIRI(全米IR協会)メンバーが
IRの今後について語りました。過去15年の間、IRに求められるスキルは
著しく増えました。また、テクノロジーの進化にともない、IRO自身も
進化を遂げています。

2005年頃、ソーシャルメディアは子供の遊びにすぎないと考えられて
いました。また、多くの人が「持続可能性」は環境問題に直結する
ビジネスの問題だと考えていました。アクティビスト・シェアホルダーは
企業にとって邪魔ものであり、企業はフルカラーの分厚い
アニュアルレポートを作成するなど、IRを取り巻く環境は今とは全く
異なるものでした。
この15年で時代は大きく変わりましたが、一体IRの未来は
どのようなものになるのでしょうか?

▼ 破壊的チャンスの到来
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今後、IRの役割はより重要になり、企業はより多くのリソースを
つぎ込むようになると考えられます。ただし、IRは環境やテクノロジーの
変化に対応できない場合、生き残ることは難しいかもしれません。

IRに求められるスキルは毎年増えています。コミュニケーション、
財務・会計、市場、コーポレートガバナンス、規制対応、持続可能性、
危機管理、AI・データ分析、競合情報分析などは、いまやIROに
求められているスキルのわずか一部です。IROはその増え続ける要求に
応えることができるのでしょうか?もちろん、複数の分野で実力を
発揮するIROも存在するでしょう。しかし、実際には、チームでの
IR活動が行われるようになると予測されます。

▼ チームでの活動が主体に
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IRチームのサイズは大きくなり、その役割もより特化されると
考えられます。従来IRチームは小規模で、1~2人で担当するのが
一般的でした。
しかし、将来的には、複数の分野での経験を有するチームリーダーが
コーチとしての役割を果たし、メンバーがプレイヤーとしてサポートする
チーム形式が主流になると考えられます。

企業はIR部門を強化するためには、財務・会計、市場、コーポレート
ガバナンス、規制対応、持続可能性、危機管理、AI・データ分析、
競合情報分析などの中から、IR部門に必要なスキルを特定する必要が
あります。これらの役割は現在でも企業内に存在していますが、
IR組織の一部とすることで、よりターゲットを絞った戦略を
実現することが可能になるでしょう。

▼ ウェブサイトをチームメンバーとして活用する
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また、IROが活用できるテクノロジーが多く開発されており、新しい
テクノロジーがIRの役割をサポートするようになっていきます。
IRウェブサイトを統合テクノロジープラットフォームとして今まで以上に
活用することも有効です。投資家が企業についてリサーチする際の
第一歩がウェブサイトです。現在、IRウェブサイトの「よくある質問」に
掲載されている質問は、誰も聞かないような質問であることが多々あります。
そのため、ここで質問の答えを得られなかった投資家は企業に連絡をとり、
ミーティングを要求してきます。

オンラインショッピングサイトのようにチャットボットを採用することで、
質問により効率的に対応することが可能です。IRウェブサイトは
投資家がIROとの面談をスケジューリングするためにも活用できます。
特に小さいIRチームは活用することで、IROが戦略的なタスクや
投資家との建設的な対話にエネルギーを注ぐことが可能になります。
IRウェブサイトをチームメンバーの一員として考えることをお勧めします。

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◆ 参考・出典一覧
『The Future of IR: A Team of Tech-Empowered Specialists?』
IR Update 2019年秋号