米国トレンド:IRイベント
大規模カンファレンスからターゲットを絞ったコミュニケーションへ

米国で行われるIRカンファレンスへの参加は、米国企業そして海外企業にとっても、投資家との重要なつながりを築く重要な場とされています。そんな中、生まれている変化が注目されています。従来の大規模カンファレンスから、より深い関係を築く小規模かつ能動的なイベントを重視する傾向です。

今日の投資家は、単なる財務データや派手なプレゼンテーションだけではなく、企業文化や価値観、経営実態も投資判断に取り入れています。大規模なカンファレンスではこのような情報は伝えにくく、またターゲットを絞ったコミュニケーションも難しくなっています。

今回は、より深い関係を築くために効果的なIR活動を行う上で注目されているアプローチを紹介します。

カンファレンスの厳選

  • すべてのIRカンファレンスに参加するのではなく、具体的な目標や投資家のニーズに基づいて参加を選択します。
  • 主要な投資家ターゲットや関心のある分野に焦点を当てます。

ノンディール・ロードショーの実施

  • 特定のトピックに焦点を絞った小規模な集まりを通じて、ターゲットを絞ったディスカッションを提供します。
  • 関連性の高いトピックでの会話を通じて、有益なつながりを築きます。

企業全体の紹介

  • 取締役会とのミーティングだけにとどまらず、本社や事業拠点の見学や投資家訪問を行います。
  • 企業文化や事業運営、ESG原則へのコミットメントを直接感じさせることで、投資家に有益な印象を与えます。

エンゲージメント戦略との組み合わせ

  • 一つのアプローチではなく、自社の投資家の嗜好や目的に合わせてさまざまなイベントを組み合わせます。
  • バーチャル・ミーティングやウェビナー、少人数のグループ・ミーティングを大規模な対面イベントと組み合わせて活用します。

メッセージとアプローチの調整

  • 同じプレゼンテーションを繰り返すのではなく、オーディエンスやイベントのテーマに沿ってメッセージやアプローチを調整します。
  • ターゲットとなる投資家をリサーチし、彼らの関心や懸念に対応します。

自社の可能性を理解する投資家との関係を築く

投資家とのつながりを量的なものではなく、質的なものとして捉え、パーソナライズした情報提供やコミュニケーションが求められています。戦略的で的を絞ったアプローチを通じて、長期的な関係を築くことが重要です。

反ESGがインベスター・リレーションズの新トレンド!?

財務的な成功とESGは共存できるのか?

2023年、様々なトレンドがインベスター・リレーションズ界を賑わせました。2024年も多くの新しいトレンドが台頭してくるでしょう。今回は、2023年頃から注目を集めはじめている、「反ESG」について紹介します。

現在では、持続可能性や社会的責任、優れたコーポレート・ガバナンスなど、企業のESGに関する取り組みに注目して投資判断をすることが一般的になっています。しかし、2023年頃から、ESGの有効性や財務リターンへの影響を疑問視する反ESGが注目を浴びています。

低支持率ながらも増加している反ESG株主提案

2023年には、反ESGの株主提案は2022年よりも大幅に数を増やし、今年も増加すると考えられています。全株主提案の10%程度が反ESGであったとするリサーチもあります。ただし、株主投票を行った際の支持率は平均5%前後と低く、提案を再提出するために必要な最低ラインにも達していないケースがほとんどです。そのため、反ESGは、重要性を増すESGに対する一時的な反動で、全体としての影響は少ないという見解が一般的です。

とはいえ、反ESGでは、どのようなことが懸念されているのでしょうか。趣旨としては次のようなものがあります。

  • ESGは財務パフォーマンスよりも環境・社会指標を優先し、株主価値を損なう。
  • ESGデータは主観的で測定に一貫性がないことが多く、企業の真のESGパフォーマンスの評価は難しい。
  • ESGコンプライアンスを重視するあまり、中核的な事業運営や戦略的目標から目を逸らしている。

反ESGが浮き彫りにするESGの課題

実際には、財務パフォーマンスとESGが共存することは多くのリサーチで明らかになっています。ESGの統合が戦略的に行われれば、事業運営の強化とリスク軽減につながり、優秀な従業員を惹きつけることができます。

しかし、反ESGはESGに関する次の重要性を浮き彫りにしています。

  • ESG原則に対する企業の真のコミットメントを効果的に伝えること。
  • ESGの実践が長期的な価値創造にどのように貢献するかを示すこと。
  • 透明性のあるデータ主導のESG報告に取り組むこと。
  • データの質やESG関連の施策の実施に関する正当な懸念や疑問に対応すること。

特に、評価可能なデータの定義は改善が必要なプロセスであり、ESG格付機関は継続的な改善に努めています。

変化を続けるESG

ESGが定着するにつれ、ESGの考え方に変化も生まれています。ESGという幅広い意味を含んだ用語から、気候変動リスク、従業員の福利厚生、多様性と包括性など、より具体的な言葉が多く使われるようになると考えられています。

ESGという言葉やESGに対する株主の考え方にかかわらず、財務パフォーマンスと責任あるビジネス慣行とのバランスをとる全体的なアプローチが、長期的なビジョンを共有する投資家と強固な関係を築くことにつながります。

進化するマテリアリティ

グローバル企業が導入するESG時代の新トレンド

企業の情報開示において、マテリアリティが重要であることは広く知られています。近年、ESG時代に合わせてマテリアリティが進化した、ダブル・マテリアリティという考え方が注目を集めています。

ダブル・マテリアリティとは、企業の財務的価値と気候変動など環境への影響、人的資本や社会的問題など、企業と世界全体、両方にとっての重大事項を開示することを促す考え方です。これは、企業が世界に与える影響は金銭的な影響にとどまらないというESG時代の認識に基づいています。

ユニリーバネスレウォルマートマイクロソフトなどの巨大企業が、ダブル・マテリアリティを統合報告書やCSR報告書に盛り込んでいます。

財務と社会・環境インパクトの2つの要素を分析

ダブル・マテリアリティは、2019年に欧州委員会が「非財務報告に関するガイドライン」で提案したコンセプトです。財務と社会・環境インパクトの2つの観点からマテリアリティを判断することを促すものです。GRI (Global Reporting Initiative)では両方の観点を含めることで初めてマテリアリティとしての意義を持つとしています。

ダブル・マテリアリティの2つの観点とは次のようになります。

  • 財務マテリアリティ:投資家に利益を与えるという側面での経済価値創造に関する情報です。企業の発展、業績、地位を理解するため、企業価値に影響を与えるという広い意味もあります。
  • インパクト・マテリアリティ(社会・環境的マテリアリティ):投資家、従業員、顧客、サプライヤ、地域社会など複数のステークホルダーに与える経済、環境、人間、社会的な影響などの観点です。

たとえば、ネスレでは、人間や環境と事業の両方へインパクトを与えるマテリアリティとして、原料サプライチェーンによる環境・社会的なインパクトを上げています。

ダブル・マテリアリティをはじめ、企業開示は急激に高度化していますが、これまで以上に開示に至るまでの検討を重ね、その内容がわかりやすく開示されることが非常に重要です。