CII、ESGと人的資源に関する開示を求める

▼ 人的資源管理が企業の業績に強く関連
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全米機関投資家協議会 (CII) は、米上院銀行委員会に対して
公開レターを送り、人的資源の管理とESGに関する報告を
向上させる必要性を呼びかけました。その中で、機関投資家と
個人投資家の両方が、人的資源管理に対するアプローチについて、
明瞭で比較可能な情報を強く求めているとしています。業績と
優れた人的資源管理が強く関連しているという調査結果が数多く
発表されており、人的資源は企業にとって重要なバリュードライバーと
なっています。しかし、重要な指標がデータ化されにくいため、
人的資源に関する情報開示はこれまで進んできませんでした。
これに対し、量的また質的の両方の要素に関して情報を開示していく
時代になったと公開レターでは述べられています。


▼ 定型からの脱出が求められるESGリスク開示
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ESGリスクの開示についても、それぞれのリスクが実際に企業に
対してどのような影響を与えるのかについて考察した開示が
行われておらず、定型的な開示に留まっていると指摘されています。
そのため、投資家は実際にリスクが現実になる可能性やリスクの規模を
理解できないとしています。ESGに関する明瞭で比較可能な情報は、
投資家と米国市場に役立つと考えられています。企業報告に関する
対話(CRD) など、プライベートセクターが行っているESG開示に
関する規格の統合性を高めることの重要性も指摘されています。


▼ 今後に向けた動き
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CRDは、企業の報告フレームワーク、規格、そのほかの要件などの
間における一貫性や統一性、比較可能性を促進することを
目的として、国際統合報告委員会(IIRC) が立ち上げました。
CDP、気候変動開示基準委員会(CDSB)、財務会計基準審議会(FASB)、
グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)、
国際会計基準審議会、国際標準化機構およびサステナビリティ
会計審議会(SASB)がメンバーとして参加しています。
昨年の11月には、異なるフレームワークの連携を促進するための
2年プロジェクトが立ち上げられました。

CIIは、重大なESGリスクについては通常の開示レビューに
含めるように企業に働きかけることをSECに求めています。
ただし、ESG関連の報告要件の義務化は当面実現しそうにありません。

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◆ 参考・出典
『CII targets better ESG and human capital disclosure』
IR Magazine 2019年4月19日
https://www.irmagazine.com/esg/cii-targets-better-
esg-and-human-capital-disclosure

IRとPRが似て非なるものと知る

▼ 混同することは企業へのマイナス
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金融危機から10年、規制当局や株式市場、各国政府は、より平等で
公正なグローバル市場を目指し、インサイダー取引を排除するための
努力を続けてきました。

市場が成熟していく中、イギリスの新聞で「Your IPO can dazzle
the stock market with the right communications
strategy and PR spin(コミュニケーション戦略とPRを
利用した情報操作スピンで市場をけむに巻きIPOを成功させる)」
という見出しの記事が公開され、議論を引き起こしています。
IRとPRが混同されるケースは少なくありませんが、これは
投資家そして企業の両方にとって大きなマイナスとなります。


▼ 投資は企業の将来の業績や利益に対するものであることを認識
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IR専門家にとってはショッキングな見出しですが、過剰な期待を
させない、透明性と一貫性を保つ、KPIを明確にするなど、記事には
実際にIRにおいて重要なことも含まれていました。しかし、全体に
流れるメッセージとしては、コミュニケーションだけで投資家を
正しい選択に導くことが可能で、どんな事実でも自分たちに
有利なスピンをかけることで、投資家にとっても企業にとっても
望ましい結果を得ることができるというものでした。
IRの視点において、投資家は企業の将来の業績や利益に対して
投資します。現在の業績に関するバラ色に色付けされた
プレゼンテーションに基づいて投資するのではありません。
また、投資家がもつ期待感は複数のアナリストの発表に
基づいて生まれものであり、細切れの情報を参考に
生まれるものではありません。


▼ IRとPRを混同することによるリスク
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企業がIRをPRと混同してしまうと、事実や数値に基づいた
情報ではなく、誤った約束やスピンを投資家に提供することになって
しまいます。これは、誤った証拠に基づいた投資を促すことであり、
将来的な関係性や信頼を失うことにつながってしまいます。
投資家に抱かせてしまった根拠のない信頼感は失望につながり、
長期的な株式価値に悪影響を与えることになります。
優れたIRとは、企業の経営陣の質、市場機会、事業戦略を
基盤とした情報によって、投資意欲を促すことです。
長期予測においては、この3点の柱に加えて、業績発表、
事業展望、ガイダンス、資本配分などを補助的な情報として紹介します。

また、高い期待をもたせる表現は使用しません。PRをIRの目的で
使用することは、企業は信頼を失い、市場はインテグリティを失い、
投資家はお金を失うことにつながりかねず、すべてのステークホルダー
にとって望ましくない結果を生み出します。

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◆ 参考・出典
『When spin takes over: Never, ever confuse PR for IR』
IR Magazine 2019年5月3日
https://www.irmagazine.com/case-studies/when-spin-
takes-over-never-ever-confuse-pr-ir

バフェット氏の執筆時の心掛け

皆さまは投資の神様と呼ばれているウォーレン・バフェット氏を
ご存知だと思います。彼は世界最大の投資持株会社である
バークシャー・ハサウェイの筆頭株主です。
また毎年開催される同社の株主総会では彼の話を
聞くために世界中から数万人にものぼる株主が参加しています。
そのような会社のアニュアルレポートはどのようなものでしょうか。

彼は自分の会社のアニュアルレポートを書くときは、
投資家そのものというよりも、自分のお姉さんや妹に
話をするようなイメージで執筆するそうです。
もちろん、バフェット氏のお姉さんたちも知的な
方だとは思いますが、会計や金融の専門家ではありません。
プレイン・イングリッシュは理解できても、専門用語には
まごつくでしょう。

また、バフェット氏はこう述べています。
「自分が投資家として読み手の立場だったら知りたいと思う情報を
提供する。それが私の目指すところです。よい文章を書くためには
シェイクスピアである必要はありませんが、情報を与えたいと心から
思っていなくてはなりません。」

誰かを感動させたり、うならせたりするためではなく、
情報の提供ということを常に心に留めて文章を書くことが大切です。
ちなみにバフェット氏の2017年のアニュアルレポートの一部の英語の
読みやすさを計測したところ高校3年生が読んで理解できる
レベルでした。ぜひ一度読んでみてください。

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◆ 参考・出典

  1. 金融財務編 Plain English Handbook:SEC
  2. 法律編 Richard C. Wydick, Plain English for Lawyers,
      66 Cal. L. Rev. 727 (1978)