新型コロナウイルスでバーチャルIRが定着

不透明な経済と急激なオンラインへの移行

新型コロナウイルスのパンデミックによって、経済活動の行方が不透明となり、投資家はタイムリーかつ効果的なコミュニケーションを今まで以上に強く求めました。対面コミュニケーションが制限され、企業と投資家のコミュニケーションはオンラインに移行せざるをえませんでした。

パンデミックがバーチャルIRの実験の場に

多くの米国企業はコロナ前からオンライン上での業績発表や株主総会の実施の可能性を探っていました。そこに、パンデミックが起こったため、バーチャルへの移行が加速しました。結果、オンライン化のメリットが明らかになり、またその数値化もできるようになりました。パンデミックが去った後も、バーチャルスペースは新しいノーマルとして引き続き活用され、成長していくと考えられています。

対面ロードショーの課題

というのも、従来対面で行われていたロードショーでは、CEOやCFO、IRチームのメンバーが参加するために、高額の予算と機会費用が費やされていました。そのため、予算、時間、地理的な制限があり、費用対効果を最適化するために米国の大都市のみで行われるケースが多くなっています。

同時に、米国の大都市以外や米国外の潜在的な投資家やステークホルダーを掬い上げることができないという課題がありました。また、ロードショーを対面で行わなければその莫大な予算を戦略予算として費やすことができます。

関係性を築くためにはバーチャルよりも対面

もちろん、オンラインにも限界があります。多くの企業では、業績発表や株主総会のバーチャル化に積極的です。しかし、掘り下げた会話で関係性を築くチャンスであるインベスターデー(日本でいう投資家説明会)、 カンファレンス、ノンディールロードショーは画面越しよりも対面の方が有効であると考えられています。ただ、バーチャルIRの経験値が上がれば、この傾向も変わる可能性はあります。

コロナパンデミックにおける株主総会に関する各国の対応

▼ 株主総会延期、またはバーチャルかハイブリッドでの開催
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
コロナウイルスのパンデミックに伴い、イギリス、アメリカ、
そして大陸ヨーロッパにおいて、株主総会に関連する法の
変更と新しいガイドラインが発動されています。
株のアクティブオーナーシップという考え方を尊重しながらも、
パンデミックの中で「社会全体の健康に対する義務」を
個人や企業が果たしていくことを目指しています。

▼ スイスでは非公開の株主総会
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
スイスでは、非公開で株主総会を実施することが
政府から許可されました。それに伴い、エレベーターメーカーの
Schindlerでは、株主が参加しない年次総会を実施しています。
DKSHなど他の企業では株主総会の延期を決定しています。

ガバナンス助言団体EthosのCEO は、株主総会を非公開にすると、
株主が問題に感じている事項について取締役会や
経営陣に直接伝える重要な機会が失われるため、株主が
経営に関与できないとして懸念を示しています。
同時に、株主投票の面においては、ほとんどの投票がプロキシを
通じて投票されているので、ほぼ影響はないと指摘しています。

▼ スペインではバーチャルのみでの総会が可能に
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
緊急事態を宣言したスペインでは、3月15日からロックダウンを実施。
国民は必要最低限の外出のみが許可されています。
そのため、バーチャルのみでの株主総会が許可される決定が下されました。
この決定は、コロナが経済に与える影響を緩和させるための
「経済的そして社会的なシールド」を作り出す一連の決定の一部です。
ポイズンピル( 敵対的買収に対する企業の防衛策の一つ)の一種として、
海外の投資家によるスペイン上場企業株式の10%以上の買収を
政府が拒否することができる決定も下されました。
また、スペインの証券監督者は空売りを禁止しました。

▼ オランダでは延期またはハイブリッドでの開催
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
オランダではバーチャルのみでの株主総会の開催は許可されておらず、
3社が株主総会の延期を決定しています。他の企業もこの決定に
追随することが予測されます。延期のもうひとつの理由としては、
取締役会が配当提案や自社株買いプログラムを再度検討する必要が
あるという点もあります。ハイブリッド方式で株主総会を
実施する企業もあり、これによりライブ投票は実現しますが、
株主は取締役会に対して質問をすることができません。

▼ イギリスでは株主の参加を最大化するための工夫を推奨
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
イギリスでは、Chartered Governance Instituteと
法律事務所Slaughter and MayがCovid-19の影響を受けて
株主総会に関するガイダンスを発表しました。その発表において、
株主の総会への参加機会を最大化する試みが提言されています。
プロキシ投票の推奨、オンラインでの株主の質疑応答、
株主総会のライブストリームなどを検討することが
適切であるとしています。また、個人投資家に対して
取締役会とコミュニケーションを取れる場を年内に
開催するということも提案されています。

▼ 米国ではSECがガイダンスを発表
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
米国では、バーチャルまたはハイブリッド型の株主総会を行い、
株主に対して遠隔でアクセス、参加、投票できるように
企業が明確なガイダンスを提示することが推奨されています。
関連する企業向けのガイダンスをSECが発表しています。
株主提案に対しては、今年の株主総会シーズン中に
電話などの方法により機会を提供することが求められています。

詳しくお知りになりたい方は下記をご覧ください。
『CORONAVIRUS: Switzerland allows ‘closed door’ AGMs, as others are postponed or held virtually across Europe』
RESPONSIBLE INVESTOR  2020年3月18日
https://www.responsible-investor.com/articles/coronavirus-switzerland-allows-closed-door-agms-as-others-are-postponed-or-virtually-held-across-europe

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
◆ 参考・出典一覧
『CORONAVIRUS: Switzerland allows ‘closed door’ AGMs, as others are postponed or held virtually across Europe』
RESPONSIBLE INVESTOR  2020年3月18日
https://www.responsible-investor.com/articles/coronavirus-switzerland-allows-closed-door-agms-as-others-are-postponed-or-virtually-held-across-europe