進化するマテリアリティ

グローバル企業が導入するESG時代の新トレンド

企業の情報開示において、マテリアリティが重要であることは広く知られています。近年、ESG時代に合わせてマテリアリティが進化した、ダブル・マテリアリティという考え方が注目を集めています。

ダブル・マテリアリティとは、企業の財務的価値と気候変動など環境への影響、人的資本や社会的問題など、企業と世界全体、両方にとっての重大事項を開示することを促す考え方です。これは、企業が世界に与える影響は金銭的な影響にとどまらないというESG時代の認識に基づいています。

ユニリーバネスレウォルマートマイクロソフトなどの巨大企業が、ダブル・マテリアリティを統合報告書やCSR報告書に盛り込んでいます。

財務と社会・環境インパクトの2つの要素を分析

ダブル・マテリアリティは、2019年に欧州委員会が「非財務報告に関するガイドライン」で提案したコンセプトです。財務と社会・環境インパクトの2つの観点からマテリアリティを判断することを促すものです。GRI (Global Reporting Initiative)では両方の観点を含めることで初めてマテリアリティとしての意義を持つとしています。

ダブル・マテリアリティの2つの観点とは次のようになります。

  • 財務マテリアリティ:投資家に利益を与えるという側面での経済価値創造に関する情報です。企業の発展、業績、地位を理解するため、企業価値に影響を与えるという広い意味もあります。
  • インパクト・マテリアリティ(社会・環境的マテリアリティ):投資家、従業員、顧客、サプライヤ、地域社会など複数のステークホルダーに与える経済、環境、人間、社会的な影響などの観点です。

たとえば、ネスレでは、人間や環境と事業の両方へインパクトを与えるマテリアリティとして、原料サプライチェーンによる環境・社会的なインパクトを上げています。

ダブル・マテリアリティをはじめ、企業開示は急激に高度化していますが、これまで以上に開示に至るまでの検討を重ね、その内容がわかりやすく開示されることが非常に重要です。

経営者の英語が業績発表の結果に影響 (ハーバードビジネスレビューより)

世界中の経営陣がビジネスの共通語である英語を使って、
投資家コミュニケーションを行う中、英語や文化的背景の
違いが市場に与える影響について調査が行われています。

▼ プレイン・イングリッシュが市場に影響
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経営陣の英語が市場に与える影響について、米国外の企業4,500社を
対象に調査が行われました。

経営陣がどれだけ的確に英語でメッセージを伝えているかについて、
プレイン・イングリッシュの原則に従っているか、そして、文法のミス、
受動態の誤った使用、冠詞の誤った使用の発生頻度を基準として
測定されました。

その結果、プレイン・イングリッシュではない英語や誤った表現が
ある英語が、出来高の減少、不安定なアナリストの予測など
株式市場からの反応に複数の悪影響があることがわかりました。

業績発表を行う際においても経営陣は複雑な表現や曖昧な表現を避け、
明確、簡潔な話し方で対応する必要があると、この調査では
結論づけられています。

詳しくお知りになりたい方は下記をご覧ください。
『Research: Executives’ English Skills Affect the Outcomes of Earnings Calls』
Harvard Business Review(2019年8月1日)
https://hbr.org/2019/08/research-executives-english-skills-affect-the-outcomes-of-earnings-calls

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◆ 参考・出典一覧
『Research: Executives’ English Skills Affect the Outcomes of Earnings Calls』
Harvard Business Review(2019年8月1日)
https://hbr.org/2019/08/research-executives-english-skills-affect-the-outcomes-of-earnings-calls

財務報告書の進化とプレイン・イングリッシュ

プレイン・イングリッシュは、数年前には想像できなかった速さで
IRの世界に浸透しています。この背景には、投資家が財務報告書に
求めることが変わったことや、規制の変化があります。
数字だけではなく、その背景や計算方法を財務諸表上で
説明することが求められるようになったのです。
説明内容は得てして複雑で、表現する言葉も冗長になりがちです。
そんな内容を読者に伝わるように発信するには、
プレイン・イングリッシュを使って
わかりやすく表現することが必要不可欠です。

ここ数年、日本の会計原則でもキャッシュフロー計算書の
提出が義務付けられ、年金などのより複雑な勘定科目の
掲載も義務付けられるようになりました。
開示が進化し、複雑な事実に対する透明性が
より求められるようになったことで、開示内容に関する
説明やコメントを付け足す必要性も上がってきました。

このような背景の中、企業が数字を開示すれば投資家が
満足していたのは過去となり、今の投資家を満足させるには、
数字の背景となるストーリー、つまり、
開示している結果に至った理由を説明することが
求められるようになりました。

このニーズが生まれた背景には、
企業スキャンダルや、複雑な会計基準、企業が
運営する環境から生まれる外部リスクなどが
原因として考えられます。

さらに、財務指標が過去の状態を表す指標であると
認識されるようになり、投資家は将来を
予測するにあたり必要な、この先の業績を予測することが
できる指標を求めるようになりました。
そのため、非財務指標が活用されるようになってきています。
例えば、顧客満足率が下降傾向にあれば、
今までと同様の売上成長や利益率を維持することは
できなくなることが予測できます。

もし現実に未来の業績が危ぶまれるような状況に陥った場合に
大切になるのがコミュニケーションです。
企業が結果を受け止め、真摯な議論を行い、
その結果を開示することで、投資家が保有株式を
処分する可能性は少なくなります。
投資家の行動は開示される議論の内容によって、
変化するのです。

業績の背景にあるストーリーや理由、
非財務指標に関する議論の内容などを
世界の投資家に向けて発信するために
日本語から英語に翻訳する場合は、翻訳の質が
投資家に与える印象を大きく作用します。
このような状況でプレイン・イングリッシュが
非常に大切になります。