プレインランゲージと頻繁なコミュニケーションで市場と対話
世界中の中央銀行で重要性が広まるプレインランゲージ

先月のThe Japan Timesでは、中央銀行とプレインランゲージの関係を取り上げていました。今回はその話題を中心にお伝えします。


日銀による7月の予想外の利上げが一因となり、8月の日本市場は大きく混乱しました。市場が混乱した一番の要因は、アメリカの政策にありますが、日銀のコミュニケーション不足が市場に大きな衝撃を与え、混乱を加速させたとの見方もでています。

世界の中央銀行で共通するプレインランゲージの重要性

プレインランゲージを使ったステークホルダーとの対話の重要性は、IRの世界の常識となりつつあります。しかし日銀のコメントには専門用語や曖昧な表現が多く、一般投資家はもちろんのこと、市場関係者にとっても理解が難しいケースが少なくありません。

日銀の氷見野副総裁は、「市場との対話を改善し続けるという強い意志を持っている」「コミュニケーションとは、何を伝えようとしたかではなく、実際に人々にどう届いたかだ」と述べおり、平易な言葉でコミュニケーションを行うことの重要性を指摘しました。

中央銀行が、一般の人々に理解できるような形で情報を発信することの重要性は、日本に限った話ではありません。ニュージーランド銀行のAdrian Orr 統裁も、プレインランゲージによるコミュニケーションの重要性を強調しています。

より頻繁なコミュニケーション

また、日銀の情報提供の場が少ないことも課題です。事前に予定されている場以外にコミュニケーションをとる場を設けず、予定されている場も多くはありません。

例えば、米国の連邦準備制度や欧州中央銀行は、日本よりも頻繁に情報を発信しています。米国の連邦準備制度は、定例会合の間にも40回以上の公の場で発言を行っており、欧州中央銀行も、ある1週間では2/3以上の理事会メンバーが公の場での発言を行っています。

金利上昇の可能性や方針転換の可能性について、市場で事前に情報提供することは、市場の混乱を抑えるために重要だと言われています。7月の利上げについても、事前に可能性を示唆していた場合、混乱は少なかったのではないかという見解があります。

コミュニケーションを行う場や人物が増えると、データの解釈や発言内容の統一に課題が生まれますが、プレインランゲージで頻繁にコミュニケーションをとることの重要性は、海外の中央銀行でも認識されています。

プレインランゲージを使って、頻繁にコミュニケーションをとるというIRの常識を日銀が採用する日も遠くないかもしれません。

参考:「BOJ on quest for better communication as more rate hikes loom」The Japan Times(2024年10月28日)

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インクルーシブ・ランゲージ

「インクルーシブ・ランゲージ」について、皆さんはご存じでしょうか?
「インクルーシブ・ランゲージ」は、昨今の多様性やジェンダーの流れの中で注目されている表現方法です。
本日はそんな「インクルーシブ・ランゲージ」について学んでいきましょう!

包括的言語?

インクルーシブ・ランゲージ(Inclusive Language)は、日本語では「包括的言語」と訳されることが多いです。インクルーシブ・ランゲージにおける「包括的(インクルーシブ)」とは、ジェンダーや障がい、人種、民族、年齢、職業など、あらゆる要素を含んだ多様性を包括することを意味しています。インクルーシブ・ランゲージは、このような多様性のある社会の中で差別意識や疎外感を与えない表現方法です。

インクルーシブ・ランゲージの例

インクルーシブ・ランゲージが多様性に配慮した表現方法であることはわかりましたが、具体的にはどのような言葉になるのでしょうか?
インクルーシブ・ランゲージの例として、「policeman」を挙げてみましょう。
以前、「警察官」という言葉は英語では「policeman」と訳されていました。英語圏においても、「policeman」が違和感なく使用されてきました。しかし昨今では、ジェンダー差別的なニュアンスが含まれているとして、「policeman」ではなく、「police officer」という言葉に置き換わりつつあります。

インクルーシブ・ランゲージに置き換わりつつある言葉

「policeman」以外にも、次のようなインクルーシブ・ランゲージの例があります。

以前、使用されていた言葉 インクルーシブ・ランゲージ
ビジネスマン(businessman) ビジネスパーソン(business person)
ボーイフレンド/ガールフレンド (boyfriend/girlfriend) パートナー(partner)
ホワイトリスト/ブラックリスト (whitelist/blacklist) 許可リスト/拒否リスト(allowlist/denylist)

まとめ

これまで違和感なく上記のリストの言葉を使っていた方も多いかもしれません。
少しずつ社会が変わっていく中で、これまでの常識をアップデートしていくという姿勢が必要になってきていると言えるでしょう。

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2024年米国トランスペアレンシー・アワード
各分野で優れた「情報の透明性」を実現した企業が明らかに

企業とステークホルダー間におけるクリアで簡潔なコミュニケーションは、今日のビジネス環境において信頼と成功を築く鍵であると考えられています。しかし、コンセプトは理解できても、優れた透明性を実現している企業はどこにあるのかを知るチャンスはあまりないのではないでしょうか。

企業の透明性の実現をサポートする大手コミュニケーション会社Labrador社は、毎年トランスペアレンシー・アワードを実施し、優れた透明性を体現している米国企業を表彰しています。

透明性を実現するのは正確性やアクセシビリティ

同社では、S&P500の上位250社を評価しています。このプロセスでは、下記の5つの主要分野に焦点を当て234点以上の客観的基準が用いられます。

  • アクセシビリティ:ステークホルダーが必要な情報を容易に見つけることができるか。
  • 正確性:情報は正確で完全か。
  • 比較可能性:異なる企業間で情報を比較できるか。
  • 入手可能性:情報は容易に入手可能か。
  • 明確性:情報は理解しやすいか。

透明性が重要な理由

透明性は、投資家やステークホルダーとの信頼関係を構築する上で極めて重要です。明確なコミュニケーションを行う企業には、以下のようなメリットがあります。

  • 投資家の関心を高める
  • パートナーシップを強化する
  • 株主投票における良い結果につながる

インテル社、ダウ社などが最優秀賞

2024年は、さまざまなカテゴリーで優秀賞を受賞し総合的な透明性で群を抜いたインテル社、ダウ社、マスターカード社などが最優秀賞を受賞しました。情報を包括的に明確な方法で一貫して提供し、投資家やステークホルダーにミッション、ビジョン、戦略をわかりやすいように伝えている点が評価されました。

プレインランゲージなど各分野で評価された企業

最も効果的にプレインランゲージを使った企業:ロックウェル・オートメーション社
招集通知でのプレインランゲージの使用が評価されました。

最優秀招集通知: ロッキード・マーチン社
サマリー、詳細、ビジュアルのバランスが取れた見やすい招集通知を作成しています。

最優秀 ESG 報告書: エコラボ社
目標のサマリーを包括的に記載し、進捗状況の報告、そしてミッションとの明確な整合性を印象づけました。

最も透明性を改善させた企業:フォード・モーター・カンパニー社
特に招集通知と ESG 報告書において大きく前進しました。

さまざまな業界の受賞企業一覧は、トランスペアレンシー・アワードのウェブサイト (TransparencyAwards.com) でご覧いただけます。

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