持続可能性開示、経営陣のアカウンタビリティがカギ

▼ 8割の企業が持続可能性レポートを発表
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セリーズ(CERES: 環境に責任を持つ経済のための連合)が
まとめた2018年の報告書によると、持続可能性関連の開示が今まで
以上に一般的になってきています。2018年に持続可能性報告書を
発表した企業はS&P 500社の86%以上に及びます。
また、最も一般的に活用されている持続可能性開示
フレームワークであるGRI(グローバル・レポーティング・
イニシアティブ) に基づいてデータを開示したグローバル
大企業は70%となりました。

▼ 事業戦略との関係をクリアにした開示が必要
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報告書では、企業が持続可能性と事業戦略がどのように
結びついているかに関する説明が十分ではないことが
指摘されています。

投資家を含むステークホルダーは持続可能性に関する
パフォーマンス向上に対して経営陣がどのように関わっている
のかを理解したがっています。また、アナリストは、投資分析や
投資決定にあたり、最も重要な持続可能性関連の課題とは、
取締役による監督とアカウンタビリティであるとしています。

▼ 意思決定に役立つ情報
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投資家は意思決定に役立つ情報を持続可能性レポートに
掲載することを求めています。特に重視されているのが、
持続可能性関連の重大課題に対する役員レベルの
アカウンタビリティです。

役員が持続可能性を監督する仕組みを開示することで、
持続可能性関連のパフォーマンスを実現するにあたり、企業が
どの程度真剣に取り組んでいるかを判断することができます。
また、持続可能性に関する課題を戦略、資産配分、リスクに
どのように反映しているかに関する情報の開示も求められています。

ただし、持続可能性に関する重大トピックスを重視することが
最も効率が良いものの、戦略に影響を与える新しい課題を
考慮することも重要です。

▼ 外部からの監査で信頼性を高める
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2018年の時点で、持続可能性レポートに外部からの監査を
導入している企業は、S&P 500社のうちわずか36%でした。
外部からの監査は、厳格で信頼できる情報を開示していることを
示し、投資家は安心して投資決定に情報を使用することができます。

また、第三者機関が作成した基準を開示の枠組みとして
使用することで、投資家が情報を比較することが
可能になります。比較可能であることは投資家の意思決定において
非常に重要です。

▼ 求められるガバナンス開示
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GRIスタンダードでは、企業が持続可能性を管理する方法、
誰が管理するのか、関連する課題を緩和する方針、手続き、
計画は何であるかを開示することを求めています。
また、各トピックスに対する経営陣のアプローチを
開示することを求めています。経営陣のアプローチを開示することで、
投資家などのステークホルダーは、企業が課題に対してどのように
アプローチするのか、効果的なマネージメントを実現するために
最低限の法的コンプライアンス以上の取り組みを行っているのかを
知ることができます。

投資家は透明性、アカウンタビリティ、パフォーマンスの
源となるガバナンスに注目しています。持続可能性開示が
効果的かつ意思決定に役立つものにするために、
企業の持続可能性戦略のみならず、関連リスクや
アカウンタビリティをどのようにガバナンスシステムに
統合しているのかを開示することが求められています。

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◆ 参考・出典一覧
IR Magazine 2019年10月3日
『Why sustainability reporting needs governance perspective』

FRC、更にステップアップした気候変動関連の開示を要求

▼ TCFDを活用した開示
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英国の財務報告評議会(FRC)が発表した新しい報告書によると、
気候変動関連の開示をさらに進めていく必要性が指摘されています。
この報告書では、2017年に発表された気候変動関連財務情報
開示タスクフォース (TCFD)を枠組みとして活用することを
推奨しています。TCFDでは、ガバナンス、戦略、リスク管理、
指標・目標の4つの分野における開示を推奨しています。

▼ 投資家が求める透明性
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投資家は、気候変動関連の課題についてより多くの情報と
透明性を求めています。社会や投資家の要求が変化するのに伴い、
規制も変化してきました。このような変化に対応するために、
企業は透明性を向上させることが求められています。

▼ 複数の部門での協力
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企業として、気候変動が事業に与える長期的な影響を
理解するにあたり、IRはさまざまな部門と協力して、
ステークホルダーに伝える物語のシナリオを構築する
必要があります。そのためには、気候変動の程度に応じた異なる
複数のシナリオにおける未来を徹底的に評価し、重要ドライバーを
特定する必要があります。このような分析は、戦略、財務、リスク、
報告、総務、持続可能性、IRや経営陣や取締役を含む多くの分野で
協力して行う必要があります。

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◆ 参考・出典一覧
IR Magazine 2019年10月23日
『Companies urged to up game on climate disclosure』

より開かれた情報開示が実現 激動の20年、NIRIと市場の変化を追う

1990年から2010年までの20年間、マーケットの変化とともに、
NIRI(全米IR協会)も大きく変化しました。
その歴史の一部を紹介します。

▼ ガバナンス
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1990年は投資家アクティビズムが脚光を浴び始めた年でした。
すでに、ガバナンス関連285件、社会的課題関連290件の
株主提案が行われていました。しかし、株主アクティビズムと
ガバナンスの関連は認識されておらず、多くのIR担当者は
プロキシー関連の活動に関与していませんでした。

・1998年、NIRIの会長はガバナンスが機能しているかを
テストした上で経営陣に報告する必要性を指摘。

・2000年、IROの多くがガバナンス関連の活動を年間を通して実施。

・2007年、アクティビスト、投資専門家、メディアとのトラブルに、
IROを通じて早めに対応する必要性が提案される。このような
トラブルが今後発生する大きな問題の警告サインであることが
認識されはじめた時期。

▼ 情報開示に向けた環境作り
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NIRIは90年代に、情報開示についても働きかけています。
1994年にNIRIが実施した調査では、多くの企業が株主からの
訴訟を恐れるあまり、情報開示は法務部が中心に担当しており、
開示は最小限に留めることが一般的でした。NIRIは、情報を
開示することが公正な株主評価への唯一の道であると考え、
より優れた開示を実現するための環境を整えると同時に、
書面化されたクリアなIR方針を作成するよう企業に働きかけていきました。

企業が投資家向けに将来に関する情報を開示するためには、
投資家からの訴訟を恐れずに済む環境が必要でした。
1995年、Private Securities Litigation Reform Actが議会を
通過しました。これにより、無駄に訴訟を恐れる必要がなくなり、
投資家コミュニティにとって必要な情報を開示しやすくなりました。
相手をけむに巻くIRから、コミュニケーションをとるIRへと変わる
ターニングポイントでした。

1998年には、当時のSEC会長によって、株式市場をすべての
市場参加者にとって平等な場とするための複数年プロジェクトの
開始が宣言されました。NIRIはこの動きに協力すると同時に、
アナリストと投資家の開かれた会話を実現する規制作りに
向けてSECのサポートも実施しました。その結果、2000年、
ついにRegulation Fair Disclosure(Reg FD)が施行されました。

その後、NIRIは規制の解釈やプロセスに関する情報の普及、
IROが各々の企業でこの規制を導入するサポートに焦点を当てて
活動しました。

▼ 不況時の情報開示に改善の兆し
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2002年9月には、世界は不況に見舞われ、米国の投資家は
市場価値にして $7.3兆ドルを失いました。景気の先行きが
不透明であった2003年、多くの企業が将来の予測に関する
情報の開示を中止しました。コカ・コーラなどの大手でも、
業績予想の発表を中止しました。公正な市場を維持するにあたり、
重要な情報の開示が滞ってしまうことは大きな痛手となります。
NIRIは「IR in Tough Times」と題した資料を作成し、
チャプターミーティングやウェビナーで共有することで、
投資家に対して役に立つ情報を透明性を持って
提供することの重要性を引き続き主張しました。

この活動の成果は、2008年のリーマンショックの際に現れました。
当時、多くの金融機関が機能不全に追い込まれ、
18か月に渡る不況となりGDPは5.1%下落、S&P 500は
企業価値の50%を失いました。しかし、今回は、多くの企業が
オープンな情報開示を続けました。2009年5月にNIRIメンバーに
対して行った調査では、60%の企業が業績予想を
行っていました(2008年は64%、2007年は51%)。

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◆ 参考・出典一覧
IR Update Summer 2019
『1990 to 2010: “The More Things Change…”』