IRとPRが似て非なるものと知る

▼ 混同することは企業へのマイナス
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金融危機から10年、規制当局や株式市場、各国政府は、より平等で
公正なグローバル市場を目指し、インサイダー取引を排除するための
努力を続けてきました。

市場が成熟していく中、イギリスの新聞で「Your IPO can dazzle
the stock market with the right communications
strategy and PR spin(コミュニケーション戦略とPRを
利用した情報操作スピンで市場をけむに巻きIPOを成功させる)」
という見出しの記事が公開され、議論を引き起こしています。
IRとPRが混同されるケースは少なくありませんが、これは
投資家そして企業の両方にとって大きなマイナスとなります。


▼ 投資は企業の将来の業績や利益に対するものであることを認識
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IR専門家にとってはショッキングな見出しですが、過剰な期待を
させない、透明性と一貫性を保つ、KPIを明確にするなど、記事には
実際にIRにおいて重要なことも含まれていました。しかし、全体に
流れるメッセージとしては、コミュニケーションだけで投資家を
正しい選択に導くことが可能で、どんな事実でも自分たちに
有利なスピンをかけることで、投資家にとっても企業にとっても
望ましい結果を得ることができるというものでした。
IRの視点において、投資家は企業の将来の業績や利益に対して
投資します。現在の業績に関するバラ色に色付けされた
プレゼンテーションに基づいて投資するのではありません。
また、投資家がもつ期待感は複数のアナリストの発表に
基づいて生まれものであり、細切れの情報を参考に
生まれるものではありません。


▼ IRとPRを混同することによるリスク
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企業がIRをPRと混同してしまうと、事実や数値に基づいた
情報ではなく、誤った約束やスピンを投資家に提供することになって
しまいます。これは、誤った証拠に基づいた投資を促すことであり、
将来的な関係性や信頼を失うことにつながってしまいます。
投資家に抱かせてしまった根拠のない信頼感は失望につながり、
長期的な株式価値に悪影響を与えることになります。
優れたIRとは、企業の経営陣の質、市場機会、事業戦略を
基盤とした情報によって、投資意欲を促すことです。
長期予測においては、この3点の柱に加えて、業績発表、
事業展望、ガイダンス、資本配分などを補助的な情報として紹介します。

また、高い期待をもたせる表現は使用しません。PRをIRの目的で
使用することは、企業は信頼を失い、市場はインテグリティを失い、
投資家はお金を失うことにつながりかねず、すべてのステークホルダー
にとって望ましくない結果を生み出します。

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◆ 参考・出典
『When spin takes over: Never, ever confuse PR for IR』
IR Magazine 2019年5月3日
https://www.irmagazine.com/case-studies/when-spin-
takes-over-never-ever-confuse-pr-ir

プレイン・イングリッシュ、プレイン・ランゲージ

以前に比べて日本でもプレイン・イングリッシュへの注目度が
上がってきました。金融審議会ディスクロージャーワーキング
グループ報告(平成30年6月)でも分かりやすい開示という点から、
プレイン・イングリッシュについて述べられています。


(前略)米国では、SEC(米国証券取引員会)が、平易な言葉で明確、
簡潔に、整然とした構成で記載すべきという”Plain English”の概念を、
一部の非財務情報に適用している。

また、英国では、FRC(英国財務報告評議会)が、適切で容易に
理解可能な情報が投資家に提供されることを目的として、
2015年に”Clear & Concise”を公表し、優れた開示の実例を
紹介している(後略)

参考:https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20180628/01.pdf


そしてプレイン・イングリッシュと同様に注目されている考え方
として、プレイン・ランゲージ(平易な言語)があります。
基本的な考え方はプレイン・イングリッシュと同じですが、
英語に限らず他の言語でも、読者ができるだけ迅速、容易にそして
完全に内容を理解できるように書く手法です。

提供しているサービスや制度が利用しやすいように公的機関は
プレイン・ランゲージを使うように法律で定めている国もあります。
またWHO(世界保健機関)では効率的なコミュニケーションのために、
プレイン・ランゲージの使用を原則としています。

日本でも今後さらに外国人が増えるにあたり平易な日本語への取り組み
が進んでいます。
いずれもコミュニケーションの円滑化、生産性の向上を目標としており、
世界的に意識が高まっている取り組みといえます。

プレイン・イングリッシュで企業のストーリーを語る

「優れた語り手は、興味を惹きつけてやる気を起こさせるだけでなく、
変化に対して心を開かせます。優れたブランドやビジネスの
成功の裏には必ず優秀な語り手が存在します。」マイケル・ライト

IR担当者は、ストーリーを語るためのテクニックを使用して
影響力を高めるべきであるという話は多く耳にします。
しかし同時に、プレイン・イングリッシュも使用するべきであるとも
言われています。いったいどちらを優先すればいいのでしょうか?
その答えは、「両方」です。

優れた語り手は、ストーリーをシンプルに語ります。
シンプルにすることで、オーディエンスの注意を惹き、
楽しませるため、ストーリーを覚えてもらえる可能性が高まります。
そうすることで、覚えた話を誰かに話してもらったり、
引用してもらえるチャンスが増えるのです。

オーディエンスが思わず助けたくなるのが、優れた語り手です。
弊社の顧問がこんな話をしてくれました。

彼女は自分の5歳の子供によく絵本を読んでいるそうです。
絵本を読んでいる際に、彼女が口にする前に子供のほうが
決めゼリフを口にすることがあります。

子供はページに描かれた絵を見て、彼女が語っている内容を聞き、
タイミングよく決めゼリフを口にするのです。

このとき、彼女は自分がストーリーをうまく伝えられている
ということを実感するそうです。子供のほうも誇らしい気持ちになり、
彼女もまた子供が本を読むことを覚え、本が好きであることに
誇らしい気持ちになります。

幼稚園児だけに留まらず、大人である投資家にとっても、
誇らしい気持ちになり、役に立っていると感じることは快感となります。
そのため、ストーリーに聞き入って参加するうちに、
自分がソリューションの一部となることを望むようになるのです。

企業は投資家を敵に回したいとは考えておらず、
建設的な戦力として自分側について欲しいのですから、
非常にうれしい効果です。

簡単に思い出すことができ、自分に関係があると
感じてもらえるストーリーを提供することで、
聞き手の記憶に残すことができます。

記憶に残るということは、価値があるということでもあります。
聞く価値があり、読む価値がある、繰り返す価値があるのです。

このようなストーリーを聞いた投資家は、まるで企業にとっての
スポークスマンのように、書面に書かれただけのストーリーを
さらに広い世界へ広げてくれるのです。そしてそこに欠かせないものが
プレイン・イングリッシュの表現です。

「情報」や「ストーリー」が洪水のようにあふれる現代、
オーディエンスに切り捨てられないためにシンプル、
明確に表現するためのプレイン・イングリッシュをぜひ活用ください。