問題発生時ほど求められる情報公開
ステークホルダーとの信頼を構築する

効果的なステークホルダーマネジメントは、IRだけではなくあらゆる企業活動にとって大切です。内部や外部のステークホルダーとの信頼関係を築くためには、透明性やコミュニケーションが必要不可欠であり、問題が発生した時ほど信頼関係が求められます。

問題があるときほど求められる情報公開

2025年7月3日、世界最大級のテクノロジー製品のディストリビューター(卸売業者)「 Ingram Micro」のオーダーサイトへのアクセスが突然できなくなり、 本記事作成時の7月7日時点で、アクセスできない状況が続いています。
大きな混乱が生まれていますが、同社は数日にわたりサイトがダウンした理由を公表しませんでした。その後、簡単なプレスリリースでサイバー攻撃があったことを表明しましたが、詳細は7月7日の時点で不明なままです。電話やメールの対応も閉鎖されているため、オンライン上では様々な憶測が飛び交っています。
情報が一切公開されていないことから、一部の記事では、ユーザー掲示板であるRedditに書き込まれた内容が情報ソースに使用されるなどの状況が生まれています。(https://www.arnnet.com.au/article/4017617/ingram-micro-suffers-global-it-outage.html
ピンチはチャンスであることから、今後の対応が注目されているIngram Microですが、現時点ではユーザーの不安をぬぐい切れておらず、憶測が飛び交っています。

タイムリーな情報公開で不本意な情報が広がることを防ぐ

問題が発生した時こそ、普段から行っているステークホルダーエンゲージメントが力を発揮します。ステークホルダーとの信頼関係を築くために役立つポイントを紹介します。

透明性とコミュニケーション
プロジェクトの進捗状況などを、成功点だけでなく問題点も含めて定期的に共有します。また、問題が発生した時には、迅速に情報公開することで、不本意な情報が広がることを防ぎます。

傾聴
ステークホルダーの懸念や意見に耳を傾け、対応します。そのためにも、ステークホルダーの意見を聞くことができる場を設定する必要があります。

一貫性
一貫性で特に重要なのは、取り決めたことを確実に実行することです。有言実行は、あらゆる信頼関係を築く上で必要不可欠です。

共感と理解
ステークホルダーのニーズや視点に対し、真剣な関心を示します。ネガティブな経験をポジティブな関係構築の機会に変えることができます。

協力して問題を解決
課題解決のプロセスにステークホルダーを巻き込み、共に解決策を見つけます。

信頼関係を築くのに近道はないため、常日頃から地道に努力していくことが大切です。

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IRの要、ステークホルダーマネジメントを理解する
組織の活動に関係のある個人やグループを正確に把握

ステークホルダーマネジメントは、IR活動の重要な構成要素です。皆様もよく耳にすることが多いのではないでしょうか。良いステークホルダーマネジメントとは、組織にとって重要な関係性を築き、維持することができるアプローチです。組織の活動に関係のある個人やグループを正確に把握し、その視点を理解し、積極的に関与していくことが求められます。

ステークホルダーマネジメントの第一歩が、ステークホルダーの特定とマッピングです。各ステークホルダーが受ける恩恵、影響や潜在的な影響を深く理解するためには、誰がステークホルダーなのかを知る必要があります。

ステークホルダーを特定する

ステークホルダーを特定する、代表的な方法を紹介します。

・ブレインストーミング
ブレインストーミングを行い、プロジェクトやビジネスが影響を与える可能性のあるすべての内部および外部のグループをリストアップします

・組織図のレビュー
組織構造を分析することで、組織内のステークホルダーを特定します。

・外部環境の調査
業界のトレンド、規制、社会風潮などを調査し、外部のステークホルダーを特定します。

・過去のプロジェクトの分析
過去のプロジェクトを分析し、繰り返し出現するステークホルダーグループを特定し、そのステークホルダーに与える影響を検討します。

・アンケートやインタビュー
特定のステークホルダーに対し、情報を収集するための直接的なアプローチを実施します。

・ソーシャルネットワーク分析
ステークホルダー間の関係性やつながりを可視化し、相互依存性を理解します。

・ステークホルダー分析ツールの活用
マトリックスやグリッドを利用し、関心や影響のレベルに基づいてステークホルダーを分類します。

マッピングで優先順位をつける

ステークホルダーを特定後、プロジェクトやビジネスターゲットに与える潜在的な影響や、ステークホルダーがもつ影響力に基づいて、ステークホルダーの優先順位付けを行います。これをマッピングと呼びます。例えば、短期的な株主の要求よりも、長期的な株主が求めている価値を優先する、といった意思決定もマッピングに基づいて行います。

続的なアップデート

ステークホルダーの特定やマッピングは、継続的なプロセスであり、プロジェクトの進捗やニーズの変化に応じて、定期的に更新する必要があります。

ステークホルダーマネジメント戦略を策定することは、ポジティブな関係を育み、プロジェクトの成功や長期的なビジネス目標の達成につながります。

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株主総会における株主エンゲージメントのトレンド

参加方法の多様化

コロナ渦で一気に浸透したバーチャル株主総会ですが、パンデミックも終焉を迎え、対面での株主総会も復活しました。2024年の株主総会は、対面とハイブリッド(対面とオンラインの両方で参加できる形式)が混在し、完全オンラインの会議数はわずかでした。

専門家やステークホルダーは、ハイブリッド形式での株主総会を歓迎しています。対面のみでは、参加できる人が限定されてしまい、オンラインのみでは、企業が都合の悪い質問を避けたり、議論を打ち切ったりすることが容易になってしまう可能性が懸念されているからです。

定着しつつあるハイブリッド形式

対面とオンラインの両方で参加できるハイブリッド形式は、より多くの人が簡単に参加できます。そのため、株主や投資会社に好まれています。しかし、ハイブリッド形式を実現するためには、費用、技術的な問題、また、総会のスムーズな進行や運営に影響を与える可能性など、企業側には解決するべき懸念点があります。参加、投票、質問ができるようなインタラクティブなオンライン株主総会には多くの費用がかかります。

良いところ取りの「対面 + オンライン」

オーストラリアでは、完全なハイブリットには移行せず、株主総会自体は対面で行いつつ、オンラインからライブでの質問も受け付ける形も浸透してきています。対面株主総会の利点を生かし、より多くの人が参加できる機会を提供してバランスを取ろうとする試みです。
対面で参加した株主のみが正式な参加者としてカウントされるため、技術的な問題が総会の有効性に影響を与えたり、中止や延期が必要になったりする可能性が低くなります。そのため、ある程度ハイブリッドの懸念点を払拭することができます。

インターネットでの情報提供

株主総会の招集案内は封書やメールで送付されますが、オンラインにも公開されます。また、ビデオ配信や、会議の詳細に関する最新情報やリマインダーの提供などを行うことにより、対面で株主総会に参加できない株主も情報を得ることができます。

株主総会は、年に一度の形式的な集まりから、株主と企業がコミュニケーションをとる場として変化を遂げています。株主が積極的に参加し、意見を述べることができる場とするための努力が一層求められています。

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