悪いニュースを伝える

投資家に悪いニュースを伝えることは、インベスターリレーションズの大切な役割のひとつです。丁寧な計画を立てることが求められるプロセスの全体像を紹介します。

出来事の全体像を把握する

株価に悪影響がある出来事が起きた場合、あるいは起きる可能性がでた場合、まずその全体像を把握します。財務的な影響、出来事の時系列、会社が講じている対処策、また出来事が実際に起きた場合の株価への影響など、必要な関連情報を収集します。

自社のストーリーを伝えるためのコミュニケーションプラン

ニュースリリースの作成、発表タイミングや発表手段の選択、誰がニュースを伝えるか、オンラインカンファレンスの実施タイミングなど、投資家にニュースを伝える方法を慎重に決めます。台本の用意や、投資家からの質問を予測することも必要です。

ニュースの伝達方法は、プレスリリース、電話会議、主要投資家との個別ミーティングなどから検討します。また、報道機関などには、そのまま配信できるように自社で用意した原稿を送信し、自社視点でニュースが発信される可能性を高めます。

ニュース発表のタイミング

タイミングは非常に繊細な問題です。株主がニュースに大きく反応して、株価に大きな影響がでることが予測される場合もあります。このような場合、ショート売りによる株価下落の増幅を避けるために、市場がオープンする数時間前に株主にニュースを伝えるケースが多くなっています。グローバル企業においては、その出来事が起こった国と、上場市場がある国が異なり、時差がある場合があります。その場合、さらなる注意が必要です。また、大規模な契約の打ち切りなど、ある程度予測できる出来事の場合は、その出来事が起きる日を調整可能か検討します。

投資家へのニュース伝達

投資家にニュースを伝える際には、率直かつ正直であることが重要です。ごまかしたり、重要な情報を隠したりすることは避けながらも、この悪いニュースがどのように将来のチャンスにつながるのかを伝えることも求められます。

ニュースを伝える際は、専門用語や専門的な表現は避け、簡潔に伝えます。これには、プレインランゲージが活躍します。また、投資家の懸念を認め、質疑応答の場を用意することも大切です。

投資家がネガティブだと判断するニュースを伝える際にも慌てず対応できるよう、普段からプレインランゲージを使った分かりやすいコミュニケーションをぜひ意識してみてください。

アニュアルレポートのCEOメッセージ(Letter from the CEO)のベストプラクティス

過去と未来のバランスで関係性を高める

激動の2020年も終わり、年末には仕事面と個人面から激動の一年を振り返るチャンスが多くあったのではないでしょうか。過去を振り返って未来に思いを馳せていることは、より良い明日を作り出すチャンスでもあります。

これは、アニュアルレポートに掲載されるCEOメッセージにも当てはまります。ステークホルダーの利益を第一に考え、前年を振り返り、未来について語ることで、より良い関係性を作り出すことにつながります。

CEOメッセージの役割は、企業について、企業のパフォーマンス、経営陣の意思決定プロセスなどを株主が深く理解できるようにすることです。しかし、実際には、多くのCEOメッセージではこれを実現できていません。よく見逃されているポイントと、より良い挨拶を実現するためのポイントを紹介していきましょう。

CEOメッセージによくみられる欠点

•バランスが取れていない
成功ばかりを強調し失敗を説明しないため、単なるプロモーションに見えてしまいます

•冗長
CEOならではの、独自で価値ある視点を加えず、すでに発表された簡単にアクセスできる財務成績をまとめているだけの場合

•過去を振り返っていない
過去に定めた目標とそれに対する達成度をしっかりとレビューせずに、将来のゴールばかり語る場合

•誰かを責める
企業内の問題の原因を外部の環境としてしまう場合

CEOメッセージのベストプラクティス

失敗から成功の秘訣を学ぶことができます。優れたCEOメッセージのポイントは次のようになります。

•ステークホルダーは誰か
読み手はあなたの事業を深く理解したいと考えているパートナーであると考えましょう。マーケティングの対象である潜在顧客(または攻撃をしかけてくるアクティビスト)として扱うのはお勧めしません。

•バランスの取れた視点
前年度にうまくいった点、うまくいかなかった点の両方について説明します。

•コンテクスト
重要な業績指標を紹介する際に、その業績指標が自社の戦略とゴールにどのように関連しているか、コンテクストを説明します。

•プロセスを重視
経営陣が意思決定に使用しているプロセスを自分の体験として紹介します。

•文化
企業文化など財務情報以外の定性情報に関して端的に紹介します。

CEOメッセージの大切な役割

CEOメッセージがどんなに優れていても、それだけでは企業が素晴らしいわけでも、投資する価値があることでもありません。その逆も同様で、優れた投資先となる企業のCEOメッセージが素晴らしいとは限りません。

しかし、優れたCEOメッセージは大切な役割を果たします。ステークホルダーを理解している、自信と謙虚さのバランスをもったCEOは投資家から歓迎されます。優れたメッセーは、リーダーに適した性質をもったCEOがトップであることを投資家に示すことができます。

新型コロナウイルスでバーチャルIRが定着

不透明な経済と急激なオンラインへの移行

新型コロナウイルスのパンデミックによって、経済活動の行方が不透明となり、投資家はタイムリーかつ効果的なコミュニケーションを今まで以上に強く求めました。対面コミュニケーションが制限され、企業と投資家のコミュニケーションはオンラインに移行せざるをえませんでした。

パンデミックがバーチャルIRの実験の場に

多くの米国企業はコロナ前からオンライン上での業績発表や株主総会の実施の可能性を探っていました。そこに、パンデミックが起こったため、バーチャルへの移行が加速しました。結果、オンライン化のメリットが明らかになり、またその数値化もできるようになりました。パンデミックが去った後も、バーチャルスペースは新しいノーマルとして引き続き活用され、成長していくと考えられています。

対面ロードショーの課題

というのも、従来対面で行われていたロードショーでは、CEOやCFO、IRチームのメンバーが参加するために、高額の予算と機会費用が費やされていました。そのため、予算、時間、地理的な制限があり、費用対効果を最適化するために米国の大都市のみで行われるケースが多くなっています。

同時に、米国の大都市以外や米国外の潜在的な投資家やステークホルダーを掬い上げることができないという課題がありました。また、ロードショーを対面で行わなければその莫大な予算を戦略予算として費やすことができます。

関係性を築くためにはバーチャルよりも対面

もちろん、オンラインにも限界があります。多くの企業では、業績発表や株主総会のバーチャル化に積極的です。しかし、掘り下げた会話で関係性を築くチャンスであるインベスターデー(日本でいう投資家説明会)、 カンファレンス、ノンディールロードショーは画面越しよりも対面の方が有効であると考えられています。ただ、バーチャルIRの経験値が上がれば、この傾向も変わる可能性はあります。