アニュアルレポートのトレンド:
AI、テクノロジー、リスク

注目度急上昇のトピック

近年、企業の開示において、人工知能(AI)とテクノロジー関連のリスクが急速に存在感を増しています。技術革新に伴う機会と脅威の両面について、投資家やステークホルダーの関心が非常に高まっていることを示しています。

アニュアルレポートでの言及が急増するAI

グローバルトップ企業が米国政府に提出するアニュアルレポート(10K)の開示トピックの中で、2020年から2024年にかけて最も劇的な成長を遂げたのがAIです。

特にマイクロソフト社、アルファベット社、メタ社、NVIDIA社といった大手テック企業は、AIや機械学習への言及を大幅に増やしています。注目すべきは、テスラ社、TSMC社、サウジアラムコ社といった非テクノロジー企業も、事業運営、リスク管理、そして顧客体験におけるAIの重要性に言及しています。

AIはもはやテック企業のみでなく、あらゆる産業に影響を与える話題となっています。

深まる懸念と求められる対策:サイバーセキュリティ

AIや機械学習の活用が広がるに伴い、避けて通れない重要課題として注目されているのがサイバーセキュリティとデータプライバシーです。

多くの企業が、リスクに言及するセクションを拡充し、サイバー脅威への対応やデータガバナンス体制の強化を報告しています。

テクノロジーのポジティブな側面(成長の機会)と、責任あるAIの利用やセキュリティリスクへの懸念(脅威)が、表裏一体の関係にあることを示しています。

投資家は、企業が成長機会をどう捉えているかだけでなく、サイバーセキュリティ、規制などの潜在的な脅威にどう対処しているかを総合的に理解したいと考えています。投資家向けコミュニケーションでは、攻め(テクノロジーの活用)と守り(リスク対策)のバランスを取った姿勢が求められます。

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【セミナー参加レポート】英文IR人材育成講座
海外投資家の心をつかむ英文IRとは?

2025年10月8日・9日に東京証券取引所で開催された「英文IR人材育成講座 海外投資家の心をつかむ英文IRとは?」に参加しました。本記事では、セミナーの概要と参加者の方々が抱える課題、そして海外投資家に「伝わる英文IR」へのヒントをまとめます。

この講座は、一般社団法人東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)と東京証券取引所が共催し、英文IRの基礎から実践までを学べるセミナーです。弊社も今年、IR支援会社としてワークショップに参加いたしました。​

セミナー概要

10月8日はスタンダード市場・グロース市場・TOKYO PRO Market・未上場企業向け、9日はプライム市場企業のIR担当者向けに構成され、2日間で約150名が参加されました。​
1日目は「これから英文開示へ取り組む方」、2日目は「既に実施して課題を持つ方」が中心でした。

主なプログラム:

  • 企業の事例に学ぶIRの工夫
  • 海外投資家の視点と「伝わる」情報発信
  • 英文IRレベルアップのカギ
  • ワークショップ&ネットワーキング

ワークショップで聞かれたお悩みの声

【1日目】

  • 人員・予算不足で英文開示が進められない
  • どの資料を英文にすべきか分からない
  • 翻訳会社への依頼後、品質を評価できない
  • 情報過多で日本語文が長く複雑になる
  • 会社自体が英文開示に消極的

【2日目】

  • AI翻訳の品質に不安がある
  • 翻訳会社の成果物が機械翻訳と同じだった
  • 海外投資家へのアプローチ方法が不明
  • 規模に応じた開示範囲が判断できない

このほか、海外メディアの方からは「日本語原稿も翻訳もプレインではない」「内容が伝わらず読みにくい」との指摘もありました。

スピードと品質を両立する鍵

実際のところ、「海外投資家の心をつかむ英文IR」の出発点は日本語原稿です。元の文が複雑だと、翻訳ツールや翻訳者の質に関わらず、英語も伝わりにくくなります。重要なのは「プレインランゲージ」の考え方です。​

弊社では、11月17日(月)に日本IR協議会様との共催で、「日英同時開示をスムーズにするためのプレインランゲージ」セミナーを開催予定です。
「一読して理解される日本語=プレインジャパニーズ」をテーマに、より伝わる英文IR発信の基礎を解説いたします。ぜひご参加ください(申込締切:11月10日(月)17時)。

詳細はこちら
2025年11月17日(月)13:00~15:40 Zoom ウェビナー+オンデマンド配信
お申し込み・詳細:一般社団法人 日本IR協議会オフィシャルサイト

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AIの波を乗りこなす

AIにコントロールされないためのマインドセット

AIが社会に浸透することで、仕事の本質が変わりつつあります。従来、仕事で成功するために重要だと考えられてきた知能指数(IQ)や感情知能指数(EQ)ですが、これだけでは不十分だという見方が広がっています。成功するために最も重要なスキルは、適応し、学び、学び直し、再学習し続ける能力であるとし、AI専門家のJeff Bullasはこれを「適応指数(Adaptability Quotient)」またはAQと呼んでいます。これはIRの世界も例外ではありません。

永遠に続いていく変化に消極的に反応するだけではなく、積極的に学んでいく姿勢をとることで、AIは仕事を奪う敵ではなくなり、仕事を効率化する強力な味方となります。

逆境知能指数(Adversity Quotient)の方がAQと呼ばれることが多いですが、意味は類似しています。どちらもAIが対応する時代に重要だと説かれています。

不安に押しつぶされないための4つのマインドセット

AIの特徴のひとつにスピードがあります。ものすごいスピードで変化するAIに置き去りにされる不安や、ついていくプレッシャーを感じているのは誰にでも共通しています。そんな不安に押しつぶされず、AIを味方につけるための4つのマインドセットを紹介します。

成長マインドセットを身に着ける

AIを脅威と見なすのではなく、仕事に役立つツールとして捉え、AIに関する学習を成長の機会と捉えます。感情分析、コンテンツ作成、データ可視化などIRの様々な分野で役立つAIツールについて積極的に学びます。

反脆弱性を備える

反脆弱性とは不確実性を通じて成長につなげる性質を指します。AIに抵抗するのではなく、AIから恩恵を得るシステムを構築します。例えば、投資家向けのメッセージやプレスリリースについて複数のバージョンを用意し、AIでテストすることで、共感を呼ぶバージョンを特定できます。

継続的改善を実践する

AIの導入はゆっくり着実に進めましょう。大規模なアナリストレポートを要約するためにAIツールを使用するなど、少しずつ管理可能なタスクから始め、そこから発展させていきます。一度に大きなリスクを伴う変更を行うよりも、少しずつ着実に改善を進める方が効果的です。

目的との整合性をもつ

IR担当者の使命は、株主との信頼構築や長期価値の創出です。AIツールがこの目的に貢献するのかを常に自問します。こうすることでシャイニー・オブジェクト症候群を防ぎ、本当に重要なツールにリソースを投資することができます。

新しい機会やトレンドに追いつこうとするあまり、本来の目的から逸脱し、結果的に何も達成できない状態

IRの未来はAIとの競争ではなく、投資家とのより効果的で透明性が高く価値ある関係を構築するための協働にあります。AIが自分の仕事や人生のプラスになるように 、活用していきたいものです。

参照:
https://www.jeffbullas.com/ai-disruption-survival-guide/

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