ビジネス界で活躍されている素敵なPeopleをご紹介しています。
A&Peopleは、そうした素敵な方々と業務を通じて、助力となるべく連携させていただけることを誇りに思っています。

vol.12 内田 和成さま

前BCG日本代表 現早稲田大学大学院商学研究科 教授

自分が納得したことなら、信じられる

長年携わられた経営コンサルタントという職業のことや、ビジネススクールで後進の指導にもあたられている内田教授に、その秘訣などをおうかがいしてみました。

「People」第12回目は、弊社代表である浅井のビジネススクール時代の恩師である経営コンサルタントの内田和成教授のご紹介です。

コンサルティングという職業について、また浅井が当時から感銘を受けていたという内田教授のコミュニケーション力について、たいへん勉強になるお話をうかがうことができました。

                                             [取材者:浅井 満知子]

経営コンサルタントは企業の医者、求められるのは的確な診断と処方

「ホームドクターとして、ときには相手にいやな顔をされても厳しいことは言う。アドバイスがうまく行き、長期的な関係を築ければ、コンサルタント冥利に尽きます。​」

内田教授は、世界有数のコンサルティングファームであるボストン コンサルティンググループ(BCG)で20年余にわたって経営コンサルタントとしてご活躍され昨年退任されました。
まずは、内田教授が長年携わられた経営コンサルタントという職業についておうかがいしました。

一言で言えば、企業のお医者さんです。身体の調子が悪い、うまくいかないという相談を受けたら、まずはどこが悪いのかを診断します。お腹が痛いといっても、その原因は暴飲暴食、胃の病気、他に悪い所があって胃に症状が出ている、などと様々なので、そこを的確に診断して、本当の原因を突き止めることが肝心です。企業の場合も診断の後は、やはり医者と同じく処方します。単なる対症療法(売上が上がらない→広告を打つ、安売りをするなど)では根本的な解決になりませんから、原因に合わせた治療法(新製品を開発する、違う分野で勝負するなど)を提案・実現していきます。

東京大学では電子工学を専攻され、卒業後に入社された企業に勤務し、社会人9年目にビジネススクールに通ってMBAを取得されたそうですが、どのような経緯でコンサルタントの道を選ばれたのでしょうか。

会社での仕事を進める上で自分に欠けているスキルを自覚し、ビジネススクールへ通うことにしましたが、思えばそこでの出会いや学んだことが人生の転機のきっかけとなりました。同級生は年齢もバックグラウンドも様々で、そうした環境で過ごすことで考え方や視野が広がりましたね。また、BCGという会社が存在すること自体もビジネススクールで初めて知りました。もともと数字をいじることや分析は好きでしたし、コンサルタントになれば毎日好きなことばかりやっていられる。おまけに仕事を通じて顧客の中で仕事のできる人や自分とは違うものを持っている人、なにより企業の経営者層と話ができます。楽しくて、勉強になって、しかもそれでなかなかの給料がもらえる(笑)。おもしろい仕事だ、自分の天職だと思いました。

コンサルタント会社の職種は基本的にコンサルタントという仕事しかありません。しかし、コンサルタントにはステージ(段階)があります、新人時代はマネージャから与えられた課題を自分なりに考えた方法で分析・解決する。マネージャクラスになるとプロジェクト全体をどう推進して成功させるのかに。そしてパートナーになってからは個々のプロジェクトレベルではなく顧客企業の成長・進化との併走にと、果たすべき役割が変化していく所におもしろさがあるそうです。激しい競争やプレッシャーもある中で、どのステップも“楽しい”と言ってしまえるところに、内田教授の成功の鍵があるような気がしました。

自分が納得したことなら、信じられる

コンサルタントとしてクライアントの診断をし、問題点の原因を解明するためには、高いコミュニケーション能力が求められます。ビジネススクールで後進の指導にもあたられている内田教授に、その秘訣をおうかがいしてみました。

私の考えであっても、あたかも本人が自分で考えたように仕向けることがポイント。医者の出した薬や指示はつい飲むのを忘れたり、守らなかったりすることが常ですが、それと同じで、人から言われたことには従いにくいものです。
最終的には自分の考えを相手に納得してもらうにしても、まずは相手が何に反対しているのか(文字通り言葉の内容を理解する)、その後にどうしてそう考えるのか(背景・意図)を理解することが大切です。反対意見にも、その意見にまったく反対である、大筋では賛成だが細かい点で納得できない、過去に失敗経験があるので心配だとか、コイツが嫌いだから(笑)といろいろなケースがあります。それが理解できれば、解決策は簡単に見つかるものです。自分の権威を示したくて反対する人に『違います』と対峙するのでは、相手のメンツをつぶし、ひいては自分のチャンスを逃すことになってしまう。そんな場合は『なるほど、そういう考え方もありますね』と対応したり、大筋賛成で細かい点で反対する人はこちらの応援団ですから、丁寧に対応します。『その点はこういう分析を追加して、さらに詳しく見てみます…』と理解を示します。
本音と発言に差があることはわかっていても、ビジネスとなると言う方も聞く方も額面通りに受け取りがち。常に発言の真意を意識しなければいけません。
例えば、自動車を運転していると車道をちょろちょろ走る自転車が邪魔に思えますよね。反対に自分が自転車に乗っているときは、自動車の運転が乱暴に思えるものです。BCGには“相手の靴に足を入れる”という表現があって、相手の立場に自分を置いて考えてみることが大事であることの例えです。

「相手の発言は、左脳で言語的な意味を、右脳でその背景を理解する。難しいように聞こえますが、日常生活ではごく普通に行っているんですよ。」

内田教授の喩えはどれをとっても大変わかりやすく、誰にでも理解できます。コミュニケーション能力とは「相互に理解し合うこと」を内田教授とお話をしているといつも思い起こさせていただけます。
エイアンドピープルでは論理的思考とコミュニケーション力をアップするためにディベートを採り入れていますが、ディベートの前に主旨を説明し、相手を論破することが目的でないことを説明しますが、自分の主張を押し通すことに終始してしまい、平行線のまま結論に至れないことがありますので、たいへん参考になりました。

不透明な時代、将来を担う若者へのメッセージ

「学生には客観的に考えろと言いながら、私自身は“天動説”思考の人間。自分がやりたいことか、楽しめるかが肝心です。​」

内田教授は、コンサルタント時代からビジネススクールの講師をされていらっしゃいましたが、2004年にBCGの日本代表を退かれてからは、シニアヴァイスプレジデントとして経営に参画され続けながら、早稲田大学大学院で本格的に後進の指導にあたられ、現在は教職に専念されています。
内田教授の講義は、多くの学生のまとまりのない発言でもうまく考えをくみとり整理して、先生のエッセンスを加え膨らませて、反復唱して「なるほど、つまりは・・・・・・ということだね」と相手に返してあげる。学生は「はいそうです。」となり、あたかも自分がすべてを考えたような気になり、「自分はこんなことが考えられるんだ!」「自分の意見を上手に言えた!」「みんなが共感し、うなずいてくれた!」という充実感が得られ、クラスを後にできます。(浅井自身も内田教授からいただいた“自信”と“錯覚”を何度も経験しました)
当時から内田教授の講義は学生に大変人気が高かったのですが、内田氏のネームバリューだけに限らず、そうした自信を持てる講義をしてくださる講師として人気があり、クラスも活気があったのだと思います。

また、内田教授の講義で休講はほぼゼロでした。ご自身がどんなにお忙しくとも、たとえヨーロッパ出張中でも講義のためにわざわざ帰国し、またヨーロッパへとんぼ返りするという強硬なスケジュールを組んでも講義に穴をあけることはありませんでした。
教授いわく、「ビジネスマンとして当たり前のことでしょ?」とさらっと答えられました。
それを本業にしている大学の専任教授ですら何らかの理由で2割ほどを休講にする中で、仕事に対する真摯な姿勢に改めて敬服しました。

BCGでもあと10年は続けられたけれど、自分がプレーヤーとしてやっていくだけでなく、そういう人を育てる側に回ろうと考えたんです。これまで出会った500人を超える経営者から見聞きし、学んだ『リーダーシップ』を教えてあげたい、次世代のリーダーを育成したいと。経験豊富なビジネスパーソンと話しをするのも楽しいけれど、ビジネス経験の少ない学生と付き合うのもおもしろいんです。
ビジネススクールの学生は大半が二十、三十代、つまり10、20年後のビジネスリーダーです。彼らが活躍するまで私が元気でいるかどうか心配です(笑)。これからは現役の四十、五十代のビジネスリーダー(役員・経営者)の育成やサポートにも力を入れていきたいと思っています。

学生を送り出してぽっかり穴が開いても(インタビューの前日に12名のゼミ生を送り出して“若干センチ”とのことでした)、すぐにほぼ同数の新入生を迎えられ、どう鍛えようか考えるだけで楽しいとおっしゃる内田教授にとって、教師もコンサルティング業に負けず劣らずの天職のようです。
最後に、今の若者に伝えたいメッセージをおうかがいしました。

よく就職活動をしている学生から『いい会社を教えてください』と聞かれますが、そういう質問には答えません。『自分がいったい何をしたいのか、何をさせてもらえるのかを踏まえたうえでその会社がよいかどうかを教えてください』という質問なら喜んで受けます。一人ひとり、やりたいことも、将来の夢も違うはずです。したがって、一般論としての良い会社という発想から脱却し、自分の人生を自分で決定するマインドを持ってほしいですね。先に企業ありきで自分の人生をゆだねていいのか。企業も同じことです。国の政策にゆだねていいのか?そろそろそうした考えから脱却しなくては、個も、企業や国とともに衰退してしまう。まず個が力を付け、充実することが企業の原動力となり、企業も伸び、企業が伸びれば結果として国も元気になると考えてもらいたい。高度成長期のような誰もが同じパターンで前へ向かい成長する時代は終わって、今は多様性の時代。海外へ出ていって活躍してもいいし、田舎で野菜作りをしてもいい。大切なのは、世間の評価や業績ではなく、自分をどうポジショニングするかが重要なのです。

長年コンサルタント業と教職をこなしながら、多くの著書も出されている内田教授ですが、どんなリフレッシュ方法で活力を保たれているのかをうかがいました。

自動車が好きで、時間があればドライブに行きたいのですが実はあまり時間がありません。仕事を辞めたらこれをやりたいというほどの趣味もないんです。強いて言えば、私にとって大学で教えることは生活の糧のためではないし(笑)、楽しんでいるので趣味になるでしょうか。と言ったら大学や学生に叱られてしまいそうですが、学生が成長し社会で活躍する予備軍を送り出すのは大変うれしく、自分なりに意義を感じています。(間をおいて)休暇は必ず1、2週間単位でとって完全に仕事から離れていますし、BCG時代も土日はメールを見ないなど、オンとオフは切り替えるようにしています。ワイフとの時間も大切にしていますよ。

インタビューを終え、私自信も内田教授のおっしゃる『自分やA&Peopleのポジショニングを意識的に考え、行動していかなければいけない』と改めて強く感じました。
また、真のコミュニケーションとは何かを改めて再確認した気がしました。
一般にコミュニケーションとは語学力があることのように思われがちですが、実は語学とはコミュニケーションのツールの一つであって、コミュニケーション力とは必ずしもイコールではないと思います。真のコミュニケーション力とは内田教授のように、まず相手を深く理解し、その上で自分を相手に理解してもらい、相互にとって納得したうえで円滑かつ有益な策や妥協点を導ける力が秀でていることだと、改めてお話をうかがって感じました。
誰にでもわかりやすく解説されている内田教授の書かれた本を読むたびに、そのことがリマインドされます。
ぜひ皆様もそんなことも意識されながら、一冊お手にとって読んでみてください。

内田教授の著書
異業種競争戦略(日本経済新聞出版社)
論点思考(東洋経済新報社)

エイアンドピープルはお客様の大切なドキュメントをお預かりして、それを多言語圏の方に伝えるためのお手伝いをさせていただいております。お客様にとってそれぞれ唯一のドキュメントやツールであり、それは単なるテキストの羅列ではなく役割や想いがあるわけです。そうしたお客様の意図を吸い上げ、息を吹き入れ形にしていくのかが我々に与えられた使命であると考えています。そういう意味で、我々も顧客企業の発展と成長を度外視してはよい仕事はできません。
今回のインタビューではエイアンドピープルの業務と重なる点もあり、大変勉強させられることが多いインタビューでした。