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vol.40 熊沢 拓さま

株式会社ソーシャルインパクト・リサーチ 代表パートナー

投資家と企業の自然な会話の流れの中に創発的なプロセスが生まれることが、結果として有意義な対話になる

『投資で社会に変革を!』をモットーに活動されていらっしゃる熊澤さま。社名にもある「ソーシャルインパクト」とはどういったものなのか、今後投資家は上場企業に対して何を求めているのか。サステナビリティの観点から教えていただきました。

「People」第40回目は、『投資で社会に変革を!』をモットーに活動されていらっしゃる株式会社ソーシャルインパクト・リサーチ代表の熊澤 拓さまにお話を伺いました。

社名にもある「ソーシャルインパクト」とはどういったものなのか、今後投資家は上場企業に対して何を求めているのか。サステナビリティの観点から教えていただきました。

 

                                                [取材者:三島 のどか]

パーパスとインパクトは整合したものになっているのか?を投資家に示していくことが必要

熊沢様の略歴と現在の活動内容についてご紹介をお願いいたします。

私は現在、ソーシャルインパクト・リサーチ(SIR)という会社の代表をつとめております。もともとは、JAFCOやソフルバンググループでベンチャー投資家でしたが、2010年にこれからは企業も社会や環境に対するインパクトが重要になるとインスピレーションがわき、その研究機関という位置付けでソーシャルインパクト・リサーチをつくりました。いま、ようやくESGということばが投資家にも企業にも浸透してきたので、振り返ると、10年ぐらい早かった感じです(笑)

現在は、インパクト投資ファンドの運営、また、非財務と財務をリンケージさせて、企業価値にどのようにつながるかを実証研究、モデル化にも力を入れております。

海外ではSASBという機関がセクター別のマテリアリティを規定しているのですが、日本にはそういう機関がありません。

ですので、日本の上場企業の方も、自分の会社のマテリアリティは何か?それが財務パフォーマンスにどう影響しているのか?などで悩むことが多いです。

そのような問いに対して、SIRは、アナリストの視点、ESGの視点、データサイエンティストの視点を組み合わせて、実証的なアドバイスをしています。

企業が企業価値を高め投資家にアピールするために、この時代に企業が優先的に行うべき事項はなんでしょうか。また、その理由も教えてください。

まず、そもそも企業価値は誰にとっての価値なのかが問題になります。これは、企業とは誰のものなのか?とも関係する質問になります。株主のための企業価値なのか? それともステークホルダー全体を含む企業価値なのか? 

現在、後者のステークホルダー全体を含むべきだという論調がますます強くなりつつあります。2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂でも、サステテビリティは大きな柱の一つになっており、ステークホルダーとして環境も含み、企業経営者は環境に対する配慮をし、その開示をしていくという流れになってきております。東証のプライム市場対象企業はTCFDに準じた開示が求められるようになっていきます。

では、そもそもではなぜ、企業はサステナビリティや環境に配慮する必要があるのでしょうか?
以下の図で、環境、社会、経済の関係性を考えてみます。

左側は従来の考え方で、経済の中に、社会や環境が含まれる構造になっています。経済がうまく回れば他はうまくいくという考え方です。それに対して、右側は、環境の中に、社会が含まれ、またその社会の中に経済が含まれるという構造になっております。我々の経済をうまく回すためには、環境、そして社会の健全性、安定性が必要であるという考え方です。今回のコロナ禍で、我々の経済は環境、そして社会に大きく既存していることが改めて認識されたのではないでしょうか?
気候変動が大きな話題になっている通り、我々の経済に脱炭素が大きな制約条件になっています。これまでのように資源を無尽蔵に使うことが許される時代ではなくなってきており、そういう意味ではゲームのルールが変わりました。企業の競争力の源泉が、より多くの自然資本を使うことから、より少ない自然資本で質の高いモノやサービスを生み出す能力に変わっていきます。

企業開示においては、この新しいルールのもとで、企業がどのような認識をもち、展望をもち、経営戦略をたてているのか、またその能力があるのかを示すことが必要となってまいりした。この意味で、ESG投資ということが盛んに言われるようになってきているわけです。

また、コロナ禍で企業が改めて自分の会社の存在意義(パーパス)を見直そうという流れも活発化してきています。前述したように、企業が株主のものであれば株主にとって利益を示すということになりますが、企業はステークホルダー全体のものと捉えた場合には利益では足りないですね。そのフォーカルポイントとなるのがパーパスになります。その意味では、パーパスから、企業の戦略(マテリアリティ)を示し、それを実現するビジネスモデル、そのビジネスモデルが成果(経済的価値、社会的価値)を生み出しているのか? また、それが長期のインパクトを生んでいるのか? パーパスとインパクトは整合したものになっているのか?を投資家に示していくことが必要になってきていると感じております。

パーパスーインパクトモデル図

ポイントをまとめると

・企業は誰のものか? 企業価値とは誰にとっての企業価値なのか?の大前提を見直す

・環境が新たな制約条件となり、ゲームのルールが変わった。その新しいゲームルールのもとで企業が競争力があるのかを示すことが求められるようになってきている。

・後者の場合、利益のみならずパーパスを示していく必要がある。

・パーパスー戦略ービジネスモデルー成果(経済的価値+社会的価値)→インパクト→パーパスの枠組みが有効である。

投資家と企業の自然な会話の流れの中に創発的なプロセスが生まれることが、結果として有意義な対話になる

投資家と企業の建設的な対話を進めるなかで(もしくはESG開示における)プレイン・ランゲージの重要性について教えてください。

企業と投資家の間で、意義のある対話を促進する目的で、コーポレートガバナンス・コード、対話ガイドラインが定められています。このような内容を話すと対話が有意義なものになるだろうと行政が定めたものです。しかしながら、本来、有意義な対話、お互いを理解し合う対話のプロセスとは、このように対話すべきというような内容を、事前に規定されるべきものではありません。

例えると、お見合いの前に、このような内容を話すといいとよという婚活マニュアルです。現在の年収とか、職場の役職、将来の昇進の可能性、子供が何人欲しいのとか、年収とか話すといいよ、と内容を規定しているようなものです(笑)。このような内容規定は、有意義な対話、有意義な交際、有意義な結婚に結びつくものでしょうか?もっと、お互いの自然な流れ、創発に任せた方がよろしいのではないでしょうか(笑)?投資家と企業の自然な会話の流れの中に創発的なプロセスが生まれることが、結果として有意義な対話になるわけです。そういう意味で、プレイン・ランゲージの必要性が高いのではないかと考えています。