ビジネス界で活躍されている素敵なPeopleをご紹介しています。
A&Peopleは、そうした素敵な方々と業務を通じて、助力となるべく連携させていただけることを誇りに思っています。

vol.39 下川 和男さま

イースト株式会社 代表取締役会長

進化の激しい中で「パーソナルコンピュータとともに」

進化の激しい業界で30年以上着実な歩みを続けている下川さまに、イーストのポリシー、IT技術の進歩が社会全体に及ぼしつつある大きな変化などについてうかがいました。

「People」第39回目は、イースト株式会社 代表取締役会長の下川和男さまのご紹介です。

来年5月に創業35周年を迎えるイーストは、A&Peopleの代表取締役・浅井がかつてお世話になった会社です。創立メンバーの一人である下川さまの「人間ができることの大半はデジタル化できる」という教えは、今のA&Peopleにも活かされています。進化の激しい業界で30年以上着実な歩みを続けている下川さまに、イーストのポリシー、IT技術の進歩が社会全体に及ぼしつつある大きな変化などについてうかがいました。

 

                                                 [取材者:臧 菁]

進歩の激しいIT業界で「日本語」に強い会社に成長

イーストを創業されたのは、いわゆる「第二次ベンチャーブーム」時代ですね。

1980年頃、CPU8ビットから16ビットと2倍になり、IBMやアップルのパーソナルコンピュータ(=パソコン)が登場して、当時はまだ「IT」という言葉はありませんでしたが、テクノロジーがものすごい勢いで進化していました。
中学生のときに「人間が月へ行く」という衝撃的な出来事があって、このまま進歩していったら世の中はどれだけ変わっていくんだろうと思っていたら、70年代は60年代をコピーしたような時代、80年代も70年代のコピーで……。世の中が停滞している中で唯一進歩を続けていたパソコンの世界に惹かれ、そういう世界に身を置きたいと思ってソフトウエア会社に就職しました。そして、ちょうどMS-DOSからWindowsへ移行する頃に、仲間とイーストを設立したんです。

創立から33年間連続黒字とのことですが、イーストの強みは何でしょうか。

創立した年は、マイクロソフトと独占代理店販売契約を結んだアスキーがソフトウエアの企画・販売を大々的に展開していて、初年度からその発注をいただくという幸運に恵まれました。当時のアスキーの社長は創業者の西和彦さん、ソフトウエア企画部の部長が古川享さん、次長が成毛眞さんという蒼々たる顔ぶれ。翌年、マイクロソフトがアスキーとの契約を打ち切って日本法人を設立しましたが、古川さんや成毛さんがそちらに移ったおかげで、発注は途切れずに続きました。その後もマイクロソフトとの関係を続けてこられたのは、技術力の高いエンジニアがいるからです。イーストでは、「コードを書く」「プログラムを書く」ことが大切だと考え、そういうエンジニアを採用し、育てています。
また、ソフトウエアにはコンパイラやデータベースなどさまざまなジャンルがあります。イーストという社名は 「Far EAST(極東)」からとったものですが、創業時から「日本語」に強い会社にしようと、日本語処理、外字、辞書などに取り組んできたことも強みとなっています。最近では、ブラウザに縦書きやルビを表示する仕組み「縦書きWeb」を手がけました。これは、IT技術と旧来の日本語処理とを結び付けるという実に楽しいプロジェクトでした。2010年に総務省の「新ICT利活用サービス創出支援事業」に採用され、Webでの縦書き利用を普及するために開催した「縦書きWebデザインアワード」(総務省後援)や国際標準化活動など、一連の取り組みで2018年度グッドデザイン賞を受賞しました。

デジタルトランスフォーメーションの波に乗って次に天下を取るベンチャーが現れる?!

ITの進歩を30年間目の当たりにされてきたわけですね。

インテルの創業者の一人である、ゴードン・ムーアが1965年に「ムーアの法則」を唱えています。それによれば「半導体の集積率は18カ月で2倍になる」、つまりCPUの性能は1年半で2倍になり、CPUのコストは1年半で半分になる。これは他の業界では考えられないスピードです。その後インテルが18カ月を24カ月に修正したものの、いまだにその倍々の進歩が繰り返されています。
今では当たり前のインターネットも、登場してからまだ25年しか経っていません。昨年、「日本のインターネットの父」と呼ばれる村井純さんが「Googleよりもっとすごい会社が出てくる可能性が十分ある」と書かれていました。たしかに、私がこの業界に就職した頃は、世界のIBMを抜く会社が出てくるとは思ってもみませんでした。それを、ぽっと出のマイクロソフトがいとも簡単に抜いて、Windowsで世界を制覇した。それを超える会社は出てこないだろうと思っていたら、Googleが出てきた。テクノロジーが2年で倍というスピードで進化するのだから、数年後にもっとすごい会社が出てくる可能性は十分あると思います。
そういう予測のつかない世界だからこそワクワク感を味わえる、それがこの世界の醍醐味です。個人的には、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズと同じ時代を同じ業界で過ごせただけでも幸せです(笑)。

テクノロジーの進化によって、主役がハードウエアからソフトウエアに移っているようです。

その流れを、最初のブラウザ「Netscape Navigator」の開発者・マーク・アンドリーセンが言い当てています。アンドリーセンは今や注目のベンチャーキャピタリストで、テクノロジに詳しくない投資家が彼の動向を見守るほどの存在です。そのアンドリーセンが2011年に書いたコラム「Why Software is eating the world?(ソフトウエアが世界を飲み込んでいる)」で、「すべての産業はデジタル化する」と言ったのです。つまり、本は紙から電子に、音楽はCDからSpotifyのような音楽配信サービスにといった具合に。この流れは今「デジタルトランスフォーメーション」と呼ばれていて、金融系ではFintech(フィンテック)、教育系ではEdutech(エデュテック)と、アンドリーセンが言ったとおりのことが起こっていますし、業界の大手企業も、「AI」や「IoT」以外に、「デジタルトランスフォーメーション」を冠した部署を設置して、デジタル化の推進を進めています。
デジタル化の波に乗れるかどうかは、企業存続にも関わってきます。新しいサービスが登場しても、それを担うのは新しいプレーヤーで、従来からのプレーヤーはそれについていけない。先日、みずほグループとLINEが共同で設立した「LINE Bank」にも、そういう構図が現れています。銀行のシステムは重厚長大で、インターネットのサービスには向いていません。みずほは、3行が合併したのでなおさら。スマホ決裁で出遅れないために、LINEのインフラを利用するという選択をしたわけです。

「面白い」が人のモチベーションを高くする

イーストには「既成概念にとらわれない」「新しいことをやってみる」という印象があります。

イーストでは、社員が「面白そう」「やってみたい」と思えるかどうかを第一に考えています。生産性のアップには生産効率を上げる、時間を短縮するという手法もありますが、自分がやりたいと思うことで生産性は3倍もアップすると聞きますし、やはり大切なのは社員のモチベーションだと思います。社員が興味を持っていることがあれば、それと共通点があるものを見つけて「同じようなものだからこれをやってみたら」とアドバイスするなど、興味を仕事につなげていくよう心がけています。
経営の安定という観点からも、業務は受注と自主制作の両輪になりますが、理想的にはもう少し自主制作の比率を上げて、ヒット商品も出したいなと思っています。それを実現できる環境、会社にいるわけですから。個人的には、出版業界との関わりが大きいので、出版物も会社の業務もデジタル化が進んでいない出版社にIT化の部分でお手伝いができたらと思っています。

オフはテクノロジーから解放されていらっしゃいますか。

仕事を離れたオフでも、タブレットが手放せません。持ち歩かなくてすむように、家ではどの部屋にもタブレットが置いてあるんです(笑)。布団に入ってからも寝転んでタブレットを見ているので、「まぶしいから消して!」と妻に怒られています。
テレビを見るときも、気になったことはすぐタブレットで調べるので常に2画面体制です。ニュースなどは、縛りがない分、ネットの方が情報も多様ですが、見始めると際限がない。テレビにも、NHK BSの国際ニュースや民放のビジネス番組など、幅広い視点で世界の情報を知ることのできる番組があるので、そういうものは予約録画して見るようにしています。