3年目の欧州MiFID II

▼ アンバンドリング規制のこれまでと今後の行方
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
欧州の金融市場の標準化、投資家保護強化、市場の透明性向上を
目的としてMiFID II(第2次金融商品市場指令)が2018年1月に
導入されてから、2年が過ぎました。
その間にMiFID IIはIRにどのような変化を与えたのでしょうか。

MiFID IIによるIRへの影響で特に注目すべきなのは、
「アンバンドリング」と言われる規制です。

金融業界では、従来、運用会社からフルサービスの証券会社への
支払いには「バンドル型コミッション」という形態が
多く採用されてきました。バンドル型コミッションでは、
執行手数料に「リサーチ手数料」が加えられた
(つまりバンドルされた)形の料金形態となっています。

リサーチ手数料とは、証券会社(セルサイド)が行う調査レポートの提供、
企業との面会アレンジ(コーポレートアクセス)など、
証券の売買に関連するサービス(一般に「セルサイド・リサーチ」
と呼ばれるもの)に対する報酬です。

MiFID IIのアンバンドリング規制により、運用会社(バイサイド)は
リサーチを独立したサービスとして購入しなければならなくなったのですが、
実際は委託自体が減少するという傾向を生み出しています。
これに伴い、バイサイドに無料のレポートを提供する
「スポンサードリサーチ」を発行する会社も台頭してきています。

▼ 米国市場へも影響
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
MiFID IIは欧州の規制ですので、欧州市場への直接的な影響は
もちろんのこと、金融市場のグローバル性により、
米国でも委託手数料収益が減少したり、投資銀行リサーチ部門への
プレッシャーが増加するなどの影響が出ています。

これは、運用会社、証券会社、株式発行企業の関係性に
大きな変化をもたらしました。
委託手数料収益の減少傾向は続いており、米国の機関投資家が
払ったコミッションは、2016年から2019年の間に半分まで
減少したという調査結果があります。
また、2019年までには、60パーセント近くの委託手数料が
アンバンドルであり、
リサーチの提供との組み合わせを購入したバイサイドは
半数にも及びませんでした。
また、運用会社は積極的に専用のコーポレートアクセススタッフを
採用するようになり、バイサイドと企業が直接コミュニケーションを
とる傾向も増加しています。

▼ 欧州の足並みそろわず、アンバンドリング緩和の動きか
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
このアンバンドリングですが、全欧州が同じスタンスを
とっているわけではありません。
例えば、イギリスのFCAは、MiFID Ⅱがリサーチコストと
運用コストの両方のアカウンタビリティを向上させたとして
大きく評価しています。
しかし、フランスとドイツの規制当局は、委託件数全体が
減少していることに危機感を抱いており、
小規模なリサーチプロバイダーと運用会社の健全なビジネスを
守るためにアンバンドリング規制の見直しを求めています。

イギリス以外のEU諸国がアンバンドリングルールの緩和を
求める動きを見せているのと並行して、イギリスは
EUから離脱するプロセスを進めています。
イギリスがMiFID IIを維持するのか、それとも新しい規制を
作るのかが注目されています。
もし、イギリス、EU、米国が異なる制度を持つことになると、
機関投資家にとっては頭の痛い状況となるでしょう。

さまざまな変化が予測される中、IROがバイサイドと
セルサイドのモチベーションを理解し、コミュニケーションを
行うことが今まで以上に重要になってきています。

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
◆ 参考・出典一覧
『MiFID II Turns Two: Second Thoughts and Unintended Consequences』
IR Update 2020年春号

資産運用会社、データ分析をより活用する傾向に

▼MiFID IIが市場トレンドに影響
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
Linedata社が資産運用会社を対象とした調査を行いました。
その結果、MiFID II(第2次金融商品市場指令)の導入に伴う
市場の混乱の中で、バイサイドが投資した資産を守り、
投資を成功させるために、データ分析を活用したプロジェクトを
重視していることがわかりました。

MiFID IIが導入されてから、資産運用業界では新しい動向や
トレンドが数多く生まれています。

▼MiFID II:不安から対応へ
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
2019年は、経営効率の向上とベンチマーク越えのリターンを
獲得するための取り組みが再び大きく注目されるようになりました。
その中でも、特に次の2点が注目されています。

・今まで活用しきれていなかったデータを活用するための取り組み
・データ分析の外部委託。高度なデータ分析、資産運用会社の
投資成績向上へのフォーカス、クライアントへのサービスの向上を実現

バイサイドにとっての昨年の課題として一番多く挙げられたのが、
新規制(44%)でした。その規制が施行された現在、
バイサイドにとっての最も大きな課題として、次のような回答がありました。

・投資成績の維持(34%)
・新規クライアントの資産獲得(33%)
・運営効率の維持(33%)

また、データ分析を活用できるチャンスが最も多いエリアとして、
投資戦略に関する意思決定を挙げた回答者は23%に上りました。

▼新テクノロジーが与える脅威への不安は減少傾向
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
ブロックチェーンや人工知能を活用したロボアドバイザーが
今後5年間の資産運用業界にとって最大の脅威となると考える
バイサイドが減少していることもわかりました。

・今後5年間の資産運用業界にとって最大の脅威は
ロボアドバイザーである:7%(2018年は22%)

・今後5年間の資産運用業界にとって最大の脅威は
ブロックチェーンである:12%(2018年は16%)

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
◆参考・出典一覧
IR Magazine
『Mifid II: Asset managers focusing on digitization projects』
https://www.irmagazine.com/technology-social-media/mifid-ii-asset-managers-focusing-digitization-projects