反ESGがインベスター・リレーションズの新トレンド!?

財務的な成功とESGは共存できるのか?

2023年、様々なトレンドがインベスター・リレーションズ界を賑わせました。2024年も多くの新しいトレンドが台頭してくるでしょう。今回は、2023年頃から注目を集めはじめている、「反ESG」について紹介します。

現在では、持続可能性や社会的責任、優れたコーポレート・ガバナンスなど、企業のESGに関する取り組みに注目して投資判断をすることが一般的になっています。しかし、2023年頃から、ESGの有効性や財務リターンへの影響を疑問視する反ESGが注目を浴びています。

低支持率ながらも増加している反ESG株主提案

2023年には、反ESGの株主提案は2022年よりも大幅に数を増やし、今年も増加すると考えられています。全株主提案の10%程度が反ESGであったとするリサーチもあります。ただし、株主投票を行った際の支持率は平均5%前後と低く、提案を再提出するために必要な最低ラインにも達していないケースがほとんどです。そのため、反ESGは、重要性を増すESGに対する一時的な反動で、全体としての影響は少ないという見解が一般的です。

とはいえ、反ESGでは、どのようなことが懸念されているのでしょうか。趣旨としては次のようなものがあります。

  • ESGは財務パフォーマンスよりも環境・社会指標を優先し、株主価値を損なう。
  • ESGデータは主観的で測定に一貫性がないことが多く、企業の真のESGパフォーマンスの評価は難しい。
  • ESGコンプライアンスを重視するあまり、中核的な事業運営や戦略的目標から目を逸らしている。

反ESGが浮き彫りにするESGの課題

実際には、財務パフォーマンスとESGが共存することは多くのリサーチで明らかになっています。ESGの統合が戦略的に行われれば、事業運営の強化とリスク軽減につながり、優秀な従業員を惹きつけることができます。

しかし、反ESGはESGに関する次の重要性を浮き彫りにしています。

  • ESG原則に対する企業の真のコミットメントを効果的に伝えること。
  • ESGの実践が長期的な価値創造にどのように貢献するかを示すこと。
  • 透明性のあるデータ主導のESG報告に取り組むこと。
  • データの質やESG関連の施策の実施に関する正当な懸念や疑問に対応すること。

特に、評価可能なデータの定義は改善が必要なプロセスであり、ESG格付機関は継続的な改善に努めています。

変化を続けるESG

ESGが定着するにつれ、ESGの考え方に変化も生まれています。ESGという幅広い意味を含んだ用語から、気候変動リスク、従業員の福利厚生、多様性と包括性など、より具体的な言葉が多く使われるようになると考えられています。

ESGという言葉やESGに対する株主の考え方にかかわらず、財務パフォーマンスと責任あるビジネス慣行とのバランスをとる全体的なアプローチが、長期的なビジョンを共有する投資家と強固な関係を築くことにつながります。

ESG投資における効果的なコミュニケーション原則
プレインランゲージでグリーンウォッシュを避ける

ESG投資は広く普及し、企業のESGに対する意識も消費者からの期待も高まっています。しかし、注目が集まるにつれて、ESGにまつわる誤解や透明性に対する懸念も増えています。

今年9月、米国証券取引委員会(SEC)がESGをテーマにした投資ファンドに対し、表記しているテーマに従って実際に投資することを定める規則を発表しました。これは主にファンドを対象としたものでしたが、企業としても「言っていること」と「実際の行動」が一致していない状況や、実践そのものが環境に対してプラスの影響をもたらしていないという批判、いわゆる「グリーンウォッシュ」への社会からの厳しい視点に備える必要があります。

効果的なESGコミュニケーションの原則

ESGに関する主張に透明性と裏付けを、簡潔でわかりやすく提供することが、自社の信頼の維持につながります。そのための秘訣をいくつかご紹介します。

  • 専門用語やテクニカルな用語の使用は避け、広く理解される表現を心がけましょう。
  • 曖昧な表現や誤解を招く表現を避け、明確で一貫性のある表現を使用します。これにより、情報へのアクセスが容易になります。
  • 誇張せず、事実に基づいた情報提供を心がけます。信頼性を損なうことなく、正確な情報を伝えます。
  • ESGに関する主張は具体的なデータや事例、認証、第三者の推薦などで主張を裏付けます。
  • ESG要素とその経営判断への影響を明確に説明します。これによりステークホルダーは企業の方針を理解しやすくなります。
  • ESGに関する取り組みがもたらした成果を、事前に定めた評価基準に基づいて具体的に説明します。これにより、企業の取り組みが抽象的でなく具体的であることが伝わります。
  • ESGイニシアティブに伴う課題や限界を率直に認識し、非現実的な約束や保証を避けます。真摯な姿勢がステークホルダーに対して信頼を構築します。
  • 原材料の調達や製造工程、サプライチェーンに関連する環境影響をオープンにし、ステークホルダーに情報を提供します。

わかりやすく、オープンで、伝わる情報提供を行うことで、ステークホルダーとの信頼関係を深めることができ、不要にグリーンウォッシュの疑いを掛けられる可能性を減らすことができます。また、わかりやすく、伝わる情報提供には、プレインランゲージが重要な役割を果たします。

ESGは本当に重要なのか? 多面的な利点を理解してESGに取り組む

日本でもESGの浸透が進むと同時に、ESGへ取り組むことの多面的な利点も目に付くようになりました。ロシアのウクライナ侵攻などの地政学的なリスクによるエネルギーリスクが顕著な例です。グリーンエネルギーは環境保護の視点だけではなく、地政学的リスクに弱いエネルギーへ依存しないためにも重要なことが明らかになってきました。

止まらない世界レベルのトレンド

ESGに懐疑的な人たちも存在しますが、懐疑派であっても、ESG推進の流れが世界レベルで進んでいることは否定することができません。

数字で見てみましょう。
・ゼロエミッション達成を公約している国:140か国
・去年一年に立ち上げられたESG投資ファンドの数:760

ESGを長期的な企業価値(持続可能な価値)の源であると考える投資家が増えており、グローバルエコノミーにおいては、多くの投資機関が投資決定にESGを使用しています。そのため、ESGの世界基準を満たすことが益々重要になってきています。

ESGへの取り組みの膠着状態を解決するポイント

ESGへの対応に行き詰まりを感じている現状を打破したいと考えている場合、4つのポイントに気を付けてみてください。

1.ESGに関する対話は、IRチームに任せるのではなく、Cクラス役員や取締役が行います
2.明確で端的であることが重要です。取り組みの数は5つまでにしましょう。
3.わかりやすさを重視します。進捗を測定したり、正しい行動を強化したりするための具体的な指標を決めることでわかりやすさが実現します。
4.ESGに取り組まないリスクについて理解します。ESGに向き合うことに対して、従業員に感情レベルで納得してもらいます。

また、ESGを通じて価値創造のフレームワークを作るにあたって、次の5つの利点に注目することで、スムーズに進むようになります。

1.売上を大きく成長させるためのチャンス
2.運営コストの低下
3.政府や規制当局からの干渉のリスクの低下
4.高い従業員満足度や生産性
5.持続可能性を投資要件とする投資家からの投資を獲得